教会とは

ニッキー・ガンベル著「人生の疑問」より

登場人物

  • 牧師
  • 婦人クリスチャン
  • その夫(ノンクリスチャン)
  • ホームレスの男
  • ナレーター

  • ナレーター

    ある日曜日の、ある小さな教会。礼拝もおわり、掃除や後片付けをしていた人も玄関に出てきました。

    (ナレーションの間に下手から婦人と牧師登場)

    婦人

    牧師先生、お掃除おわりましたので、今日はこれで帰りますね。

    牧師

    いつもありがとうございます。ところでさっきもみなさんに言いましたが、今週は牧師の会議があるので私はこれからでかけますので。

    婦人

    気をつけて行ってきてくださいね。

    (牧師、下手に退場。婦人、上手に退場。以下、上手の袖での会話)

    婦人

    ただいま

    お帰り。教会はどうだった?

    婦人

    今日のお話しはとてもわかりやすかったわ。教会っていうのは建物のことじゃなくて、そこに集まってる私たち一人一人が教会なんですって。

    ふーん。会社と会社員みたいなものかな。

    婦人

    そう考えるとあなたにもわかりやすいかもしれないわね。ねぇ、一緒に教会に行ってみましょうよ。

    ま、そのうちな。

    (下手から男、力なく歩いてきて登場。舞台中央に坐りこむ)

    オレはもうダメだ。生きていてもしかたない、いっそのこと。。。
    (カバンから刃物を出してじっと見つめる)

    婦人

    ねえ、外で話し声がしたみたいだけど、ちょっと見てきてくださらない?

    ああ、いいけど。

    (夫、下手から登場。男が自殺しようとしているのを見つける)

    ちょっと待ったあ!何してるんだ!
    (夫、男を取り押さえる)

    放してください、もう生きていてもしかたないんです。助けると思って死なせてください。

    助けたり死なせたりいっぺんにできるもんか。いいからその刃物を渡しなさい!
    (夫、刃物を取り上げる。男、舞台にくずれ落ちる)

    おい、あんた、どうしたんだ?(下手ドアに向かって)おい!ちょっと来てくれ。

    (婦人、下手ドアから登場)

    婦人

    まあ、あなた!その人に何をしたの!刃物なんか突きつけていったい!ああ神様、うちの人が人殺しをしてしまいました!

    アホ!誰がそんなことするか。

    婦人

    あなたは少しだけ乱暴なところがあるから、いつかこんなことがあるんじゃないかと心配していたんです。だから一緒に教会に行きましょうっていつも言ってたのに。おきてしまったことはしかたないわね。警察に電話します。

    待て、早とちりしすぎだ!

    警察には知らせないでください。

    婦人

    あら、生きてる。

    もうずっと、何も食べていなくて、力が。。。

    なんだ、ああ、びっくりした。しかしなんだって、死のうとしたりしたんだ。

    リストラで会社をクビになって、家賃も払えなくなって住むところも追い出され、ずっと公園で寝ていたのです。

    つまりホームレスってやつか。

    婦人

    ご家族は?

    妻は子供を連れて実家に帰ってしまいました。この上、警察のお世話になったりしたら、本当に離婚されてしまいます。もう生きていても仕方ないんです。やっぱり死なせてください。

    婦人

    困ったわね、どうしたらいいかしら。

    教会にでも連れて行ったらどうだ?こういうときに困ってる人を助けるのが教会だろ。「苦労している人は私のところに来れば休ませてあげる」って、キリストさんが言ったんだろ?

    婦人

    でも今日から牧師先生は出張で、教会には誰もいないのよ。

    牧師にも出張があるのか。牧師ってのは日曜日しか仕事しないのかと思ってたよ。まあいい、とにかく今日はうちに泊まりなさい。明日からのことは明日考えよう。

    婦人

    ええ?どこの誰だか知らない人をうちに泊めるの?それもこんなきたない人を。

    ずっと公園で寝てたって言うんだから、きたないのは仕方ないだろ。お風呂にも入ってもらえばいいじゃないか。

    婦人

    そんなこと言ったって。。。仕方ないわね、パンツとか着替えはあなたのを使ってもらうわよ。

    とにかく、まずはなにか食べないと。さ、入ってください。

    ありがとうございます。

    (3人とも上手に退場)

    ナレーター

    そして次の日、月曜日の朝のこと。

    (婦人、夫、男、上手から登場)

    あの、お世話になりました。何もお礼できませんが。

    婦人

    どこか行くあてはあるんですか?

    どこも行くあてはないんですが、このままお世話になるわけにもいきませんし。

    婦人

    だからって、また公園で寝るつもり?それで「やっぱりだめだ、もう死のう」なんて思うんじゃないんですか?

    ですが。

    婦人

    とにかく、働くところを探しましょう。仕事を見つけて、お金が入るようになって、住むところが見つかれば、奥さんとお子さんも戻ってくるかも。

    はあ。

    そうとなればさっそく、仕事探しだ。

    (三人、下手に退場)

    ナレーター

    こうして三人ででかけていきました。そしてこの日も夕方になったころ。

    (婦人、夫、男、下手から登場)

    婦人

    雇ってくれるところというのも、なかなか見つからないものなのね。

    景気も良くなってきてるって言うけどな。

    住所不定のホームレスを雇ってくれるところなんて。やっぱりもう生きていても。

    そのパターンはもういいって(男にツッコミ)。それにしても教会は何してるんだよ。

    婦人

    電話しても出ないのよ。牧師先生まだ帰ってないみたい。

    住所不定がダメなら、教会に住んでることにさせてもらえばいいじゃないか。

    婦人

    それにしたって、断りもなく勝手にできないでしょ。仕方ないから、うちに住んでることにしたら。

    で、仕事が見つかって最初の給料が入って、それから住むところを探して引っ越すまで、うちで面倒見るのか?けっこう時間かかるぞ。

    婦人

    そこまでは考えてないけど、教会に連絡がつくまででも。

    あの、私のことでケンカになるくらいなら、私出て行きますから。もうこんなにお世話になってしまって。

    そうは言ってないですよ。とにかく今日はもう寝ましょう。明日からのことはまた明日考えればいい。

    (三人とも上手に退場)

    ナレーター

    火曜日の朝。

    (婦人と夫、下手ドアから登場)

    で、あの人はどんな具合だ?

    婦人

    ずいぶん熱があるみたい。公園に住んでるあいだ、ろくなもの食べてなかったのよ。

    大丈夫かな。医者に連れて行った方がいいんじゃないか?

    婦人

    でも保険証もないっていうし。

    とにかく看病してやってくれ。じゃ、行ってきます。

    婦人

    行ってらっしゃい。

    (夫、下手に退場)

    婦人

    本当に、いつになったら牧師先生帰ってくるのかしら。
    (婦人、上手に退場)

    ナレーター

    こうして毎日がゆっくりと過ぎて行きました。そしてようやく週の終わりのほうになって、やっとこの男の人に仕事が見つかったのです。そして日曜日の朝のこと。

    (上手から婦人と男、登場。婦人はハンドバッグを手にしている)

    長いことお世話になってしまいました。住みこみで働けるところが見つかったので、これで失礼します。

    婦人

    本当によかったですね。

    私は教会というところは行ったこともありませんが、あなたと御主人のお二人こそ、キリスト様みたいです。ありがとうございました。
    (男、婦人に向かって手を合わせる)

    婦人

    それじゃキリスト様っていうより仏様みたいだけど。でもこれからがんばってくださいね。

    はい、本当にお世話になりました。
    (男、下手へ退場。婦人、それを見送ってから次のセリフ)

    婦人

    長い一週間だったこと。さ、教会に行かなくちゃ。

    (婦人、下手へ。下手から牧師登場)

    牧師

    やあ、おはようございます。

    婦人

    先生!いったい一週間も連絡つかないなんて、このあいだに私たちがどれだけ苦労したと思ってるんですか。

    牧師

    何かあったんですか?

    婦人

    (まくしたてる)何かあったじゃないですよ。たまたま会った人が、泊まるところも食べるものも仕事もないっていうし、おまけに病気にもなるし、教会に何度電話しても先生は帰ってないし、結局この一週間、私と主人でこの人をお世話したんですよ。体もよくなって仕事も住むところも見つかったからよかったけど、こういう人を助けるのは教会がすることだと思いませんか?

    牧師

    そうですね。それは教会がすることだと思いますよ。だからあなたがそうしたんですよ。

    婦人

    え?

    牧師

    この建物が教会なのでもなく、牧師だけが教会なのでもありません。イエス様を信じる私たちが教会なんです。教会が誰かを助けるときは私たちが助けるのだし、私たちが誰かを助けることは教会が助けることなんですよ。

    婦人

    そうなんですか?

    牧師

    教会の誰かが何かをする時、それはその人ひとりがしているのではなく、教会全体がしているのだし、それは教会の頭であるイエス様がしていることなんです。ところで、聖書を持っていますか?

    婦人

    はい。(聖書を取り出す)

    牧師

    ペトロの第一の手紙の、4章11節をあけてみてください。

    婦人

    奉仕をする人は、神がお与えになった力に応じて奉仕しなさい。それは、すべてのことにおいて、イエス・キリストを通して、神が栄光をお受けになるためです。

    ナレーター

    この聖書の言葉のとおりです。私たちが、神様から与えられた力で誰かを助けることは、教会の頭であるイエス様を通して、神様がたたえられることなんですね。みんなが、神様に喜ばれることをしたとき、神様がそれを喜ぶだけでなく、教会に来ていない人からも「本当の神様を信じている人はすばらしい」と、神様がたたえられるのです。


    典拠

    この作品はニッキー・ガンベル著「人生の疑問」の第8章「教会とは」に収録されている、ジョン・ウィンバー牧師の実話を脚色したたものです。

    演出ノオト

    少し話しが重いので、演技を深刻にしすぎない方がよいと思います。(特に子供の前で上演する場合)

    クリスチャンの婦人が意外と「主よ、主よ、と呼びながら…行わない」者になりかかる一方で、ノンクリスチャンの夫は人道意識によって「天にいますわが父の御旨を行う者」となる逆転があります。けれど実際に動くのは婦人なのです。

    終盤の牧師の言葉が、牧師が何もしなかった言い訳に聞こえないように。