牧師
婦人クリスチャン
その夫(ノンクリスチャン)
ホームレスの男
ナレーター
ある日曜日の、ある小さな教会。礼拝もおわり、掃除や後片付けをしていた人も玄関に出てきました。 | |
(ナレーションの間に下手から婦人と牧師登場) | |
牧師先生、お掃除おわりましたので、今日はこれで帰りますね。 | |
いつもありがとうございます。ところでさっきもみなさんに言いましたが、今週は牧師の会議があるので私はこれからでかけますので。 | |
気をつけて行ってきてくださいね。 | |
(牧師、下手に退場。婦人、上手に退場。以下、上手の袖での会話) | |
ただいま | |
お帰り。教会はどうだった? | |
今日のお話しはとてもわかりやすかったわ。教会っていうのは建物のことじゃなくて、そこに集まってる私たち一人一人が教会なんですって。 | |
ふーん。会社と会社員みたいなものかな。 | |
そう考えるとあなたにもわかりやすいかもしれないわね。ねぇ、一緒に教会に行ってみましょうよ。 | |
ま、そのうちな。 | |
(下手から男、力なく歩いてきて登場。舞台中央に坐りこむ) | |
オレはもうダメだ。生きていてもしかたない、いっそのこと。。。 | |
(カバンから刃物を出してじっと見つめる) | |
ねえ、外で話し声がしたみたいだけど、ちょっと見てきてくださらない? | |
ああ、いいけど。 | |
(夫、下手から登場。男が自殺しようとしているのを見つける) | |
ちょっと待ったあ!何してるんだ! | |
(夫、男を取り押さえる) | |
放してください、もう生きていてもしかたないんです。助けると思って死なせてください。 | |
助けたり死なせたりいっぺんにできるもんか。いいからその刃物を渡しなさい! | |
(夫、刃物を取り上げる。男、舞台にくずれ落ちる) | |
おい、あんた、どうしたんだ?(下手ドアに向かって)おい!ちょっと来てくれ。 | |
(婦人、下手ドアから登場) | |
まあ、あなた!その人に何をしたの!刃物なんか突きつけていったい!ああ神様、うちの人が人殺しをしてしまいました! | |
アホ!誰がそんなことするか。 | |
あなたは少しだけ乱暴なところがあるから、いつかこんなことがあるんじゃないかと心配していたんです。だから一緒に教会に行きましょうっていつも言ってたのに。おきてしまったことはしかたないわね。警察に電話します。 | |
待て、早とちりしすぎだ! | |
警察には知らせないでください。 | |
あら、生きてる。 | |
もうずっと、何も食べていなくて、力が。。。 | |
なんだ、ああ、びっくりした。しかしなんだって、死のうとしたりしたんだ。 | |
リストラで会社をクビになって、家賃も払えなくなって住むところも追い出され、ずっと公園で寝ていたのです。 | |
つまりホームレスってやつか。 | |
ご家族は? | |
妻は子供を連れて実家に帰ってしまいました。この上、警察のお世話になったりしたら、本当に離婚されてしまいます。もう生きていても仕方ないんです。やっぱり死なせてください。 | |
困ったわね、どうしたらいいかしら。 | |
教会にでも連れて行ったらどうだ?こういうときに困ってる人を助けるのが教会だろ。「苦労している人は私のところに来れば休ませてあげる」って、キリストさんが言ったんだろ? | |
でも今日から牧師先生は出張で、教会には誰もいないのよ。 | |
牧師にも出張があるのか。牧師ってのは日曜日しか仕事しないのかと思ってたよ。まあいい、とにかく今日はうちに泊まりなさい。明日からのことは明日考えよう。 | |
ええ?どこの誰だか知らない人をうちに泊めるの?それもこんなきたない人を。 | |
ずっと公園で寝てたって言うんだから、きたないのは仕方ないだろ。お風呂にも入ってもらえばいいじゃないか。 | |
そんなこと言ったって。。。仕方ないわね、パンツとか着替えはあなたのを使ってもらうわよ。 | |
とにかく、まずはなにか食べないと。さ、入ってください。 | |
ありがとうございます。 | |
(3人とも上手に退場) | |
そして次の日、月曜日の朝のこと。 | |
(婦人、夫、男、上手から登場) | |
あの、お世話になりました。何もお礼できませんが。 | |
どこか行くあてはあるんですか? | |
どこも行くあてはないんですが、このままお世話になるわけにもいきませんし。 | |
だからって、また公園で寝るつもり?それで「やっぱりだめだ、もう死のう」なんて思うんじゃないんですか? | |
ですが。 | |
とにかく、働くところを探しましょう。仕事を見つけて、お金が入るようになって、住むところが見つかれば、奥さんとお子さんも戻ってくるかも。 | |
はあ。 | |
そうとなればさっそく、仕事探しだ。 | |
(三人、下手に退場) | |
こうして三人ででかけていきました。そしてこの日も夕方になったころ。 | |
(婦人、夫、男、下手から登場) | |
雇ってくれるところというのも、なかなか見つからないものなのね。 | |
景気も良くなってきてるって言うけどな。 | |
住所不定のホームレスを雇ってくれるところなんて。やっぱりもう生きていても。 | |
そのパターンはもういいって(男にツッコミ)。それにしても教会は何してるんだよ。 | |
電話しても出ないのよ。牧師先生まだ帰ってないみたい。 | |
住所不定がダメなら、教会に住んでることにさせてもらえばいいじゃないか。 | |
それにしたって、断りもなく勝手にできないでしょ。仕方ないから、うちに住んでることにしたら。 | |
で、仕事が見つかって最初の給料が入って、それから住むところを探して引っ越すまで、うちで面倒見るのか?けっこう時間かかるぞ。 | |
そこまでは考えてないけど、教会に連絡がつくまででも。 | |
あの、私のことでケンカになるくらいなら、私出て行きますから。もうこんなにお世話になってしまって。 | |
そうは言ってないですよ。とにかく今日はもう寝ましょう。明日からのことはまた明日考えればいい。 | |
(三人とも上手に退場) | |
火曜日の朝。 | |
(婦人と夫、下手ドアから登場) | |
で、あの人はどんな具合だ? | |
ずいぶん熱があるみたい。公園に住んでるあいだ、ろくなもの食べてなかったのよ。 | |
大丈夫かな。医者に連れて行った方がいいんじゃないか? | |
でもホームレスやってたから保険証もないっていうし。 | |
とにかく看病してやってくれ。じゃ、行ってきます。 | |
行ってらっしゃい。 | |
(夫、下手に退場) | |
本当に、いつになったら牧師先生帰ってくるのかしら。 | |
(婦人、上手に退場) | |
こうして毎日がゆっくりと過ぎて行きました。そしてようやく週の終わりのほうになって、やっとこの男の人に仕事が見つかったのです。そして日曜日の朝のこと。 | |
(上手から婦人と男、登場。婦人はハンドバッグを手にしている) | |
長いことお世話になってしまいました。住みこみで働けるところが見つかったので、これで失礼します。 | |
本当によかったですね。 | |
私は教会というところは行ったこともありませんが、あなたと御主人のお二人こそ、キリスト様みたいです。ありがとうございました。 | |
(男、婦人に向かって手を合わせる) | |
それじゃキリスト様っていうより仏様みたいだけど。でもこれからがんばってくださいね。 | |
はい、本当にお世話になりました。 | |
(男、下手へ退場。婦人、それを見送ってから次のセリフ) | |
長い一週間だったこと。さ、教会に行かなくちゃ。 | |
(婦人、下手へ。下手から牧師登場) | |
やあ、おはようございます。 | |
先生!いったい一週間も連絡つかないなんて、このあいだに私たちがどれだけ苦労したと思ってるんですか。 | |
何かあったんですか? | |
(まくしたてる)何かあったじゃないですよ。たまたま会った人が、泊まるところも食べるものも仕事もないっていうし、おまけに病気にもなるし、教会に何度電話しても先生は帰ってないし、結局この一週間、私と主人でこの人をお世話したんですよ。体もよくなって仕事も住むところも見つかったからよかったけど、こういう人を助けるのは教会がすることだと思いませんか? | |
そうですね。それは教会がすることだと思いますよ。だからあなたがそうしたんですよ。 | |
え? | |
この建物が教会なのでもなく、牧師だけが教会なのでもありません。イエス様を信じる私たちが教会なんです。教会が誰かを助けるときは私たちが助けるのだし、私たちが誰かを助けることは教会が助けることなんですよ。 | |
そうなんですか? | |
教会の誰かが何かをする時、それはその人ひとりがしているのではなく、教会全体がしているのだし、それは教会の頭であるイエス様がしていることなんです。ところで、聖書を持っていますか? | |
はい。(聖書を取り出す) | |
ペトロの第一の手紙の、4章11節をあけてみてください。 | |
奉仕をする人は、神がお与えになった力に応じて奉仕しなさい。それは、すべてのことにおいて、イエス・キリストを通して、神が栄光をお受けになるためです。 | |
この聖書の言葉のとおりです。私たちが、神様から与えられた力で誰かを助けることは、教会の頭であるイエス様を通して、神様がたたえられることなんですね。みんなが、神様に喜ばれることをしたとき、神様がそれを喜ぶだけでなく、教会に来ていない人からも「本当の神様を信じている人はすばらしい」と、神様がたたえられるのです。 | |
| [了] |
この作品はニッキー・ガンベル著「人生の疑問」の第8章「教会とは」に収録されている、ジョン・ウィンバー牧師の実話を脚色したたものです。
少し話しが重いので、演技を深刻にしすぎない方がよいと思います。(特に子供の前で上演する場合)
クリスチャンの婦人が意外と「主よ、主よ、と呼びながら…行わない」者になりかかる一方で、ノンクリスチャンの夫は人道意識によって「天にいますわが父の御旨を行う者」となる逆転があります。けれど実際に動くのは婦人なのです。
終盤の牧師の言葉が、牧師が何もしなかった言い訳に聞こえないように。
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作成 2006年7月9日 更新 2006年8月5日 |