ユダとペトロ

登場人物


第一場

祭司長の家(ユダの裏切り)

[中央に椅子二脚。照明はやや暗いほうがよい]

ナレーター

ここはユダヤの国の都、エルサレム。過ぎ越しの祭りももうすぐという頃、祭司長の家に律法学者がやってきました。

[祭司長と律法学者が上手から登場、次のナレーションの間に椅子に座る]

ナレーター

この二人はユダヤの国でとても偉い人なのですが、最近こまったことがありました。二人にはたくさんの弟子がいたのですが、その弟子がどんどんイエス様の弟子になってしまうのです。このままでは弟子が一人もいなくなってしまう。そこで二人は、どうしたらいいか相談することにしたのです。

律法学者

祭司長様、どうしたらいいでしょうか。

祭司長

あのイエスとかいう男がいなくなってくれればいいのに。

律法学者

なるほど。ではイエスが悪いことをしたことにして、逮捕して牢屋に入れてしまいましょう。

祭司長

でも、いつも大勢の弟子たちと一緒だから、逮捕するのも大変だぞ。

ユダ

[声だけ]フッフッフッ。。。困っているようだな。

[祭司長と律法学者、椅子から飛びあがるように立ち、あたりを見回す]

律法学者と祭司長

な、何者だ!

[ユダ登場]

ユダ

私はイスカリオテのユダ。イエスを捕まえたいのなら、手伝いますよ。

ナレーター

えー?イスカリオテのユダって、イエス様の十二弟子のひとりじゃない。なんでイエス様を捕まえる手伝いなんて。。。

律法学者

イエスを裏切るというのか?

ユダ

そのとおり。だが、ただでというわけにはいかないぞ。銀貨30枚でどうだ。

律法学者

[祭司長に]どうします?

祭司長

む。それで捕まえられるなら安いものだ。出してやれ。

律法学者

[ユダに金を渡しながら]では、頼んだぞ。

祭司長

しかしユダ、おぬしもワルよのう。

ユダ

いえいえ、祭司長さまほどでは。

[3人、いかにも悪役という感じでいやらしく笑う。祭司長と律法学者は下手へ、ユダは上手へ退場]

ナレーター

ちょっと大変なことになってしまいました。イエス様の弟子が、お金のためにイエス様を裏切るなんて。どうなってしまうのでしょう。あ、イエス様たちが来ましたよ。

[椅子を片付ける]

第二場

とある家の広間(最後の晩餐)

[暗転。椅子を片付けたあと、照明]

イエス

今日はこの家に泊まることにしよう。

[一同、床に座る]

ペトロ

あー、くたびれた。歩きっぱなしだもんな。

アンデレ

あれ、ペトロ兄さん、ユダさんがいないよ?どこにいったんだろう。

ユダ

[上手から登場してきて座りながら]私ならここだ。

イエス

よし、みんながそろったところで言っておくことがある。この中に、私を裏切ろうとしている者がいる。

弟子たち

えーっ!?

ナレーター

さっすがイエス様。ユダがやろうとしていることなんて、全部わかっちゃってるんだ。

熱心党のシモン

誰だ、イエス様を裏切ろうなんてやつは。俺がぶんなぐってやる。

[下手から悪魔、忍び足で、しかし大急ぎで登場。弟子たちは、誰が裏切るのかと話し合っている]

悪魔

[ユダの耳元に]おい、ばれてるらしいぞ

[悪魔、上手へ大急ぎで退場]

ナレーター

え、何?もしかして今のは、悪魔?

ユダ

[あわてて立ち上がりながら]先生、ちょっと用事を思い出したので、出かけてきます。

[ユダ、上手に退場]

ナレーター

そうか。ユダが裏切ったのは悪魔のせいだったんだ

ペトロ

イエス様、もし死ななければならなくなっても、私はイエス様を裏切ったりしません。

[弟子たち、口々に「私も裏切りません」のセリフ]

イエス

ペトロ。お前も私を裏切って、今夜鶏が鳴く前に3回も「イエスなんか知らない」ということになるだろう。

ペトロ

そんな、私がイエス様を裏切るなんて。

イエス

でもわたしがおまえのために祈っているから、大丈夫だよ。

ナレーター

どういうことなんでしょう。ユダだけでなくペトロも裏切るなんて。でもイエス様が間違ったことをいうはずないし。[上手で走る足音]あれ、外が少しうるさいようですね。誰か来たのかな?

[兵士たち、上手から勢いよく登場。その陰からこっそりユダが登場]

弟子たち

なんだなんだ?[イエス以外立ち上がる]

ユダ

[イエスを指差しながら兵士たちに]あの男です。

兵士A

おまえがイエスか。おまえを逮捕する。

熱心党のシモン

なんだとこの野郎!俺たちの先生をどうするつもりだ。

兵士B

うるさい。[刀を抜く]邪魔をする者は切り捨てるぞ。

[ユダ、こそこそと上手に退場しかける]

アンデレ

[ユダを指差しながら]あーっ!ユダさん!そんな、ユダさんが裏切るなんて。

イエス

[立ち上がって]みんな、静かに。こうなることは旧約聖書に書いてある通り、つまり神様が決めていたことだから逆らってはいけない。でもユダ、

[イエス、ユダを見つめる。ユダは背中を向けたまま立ち止まる]

イエス

定められていたこととは言え、おまえのためには、こうならない方がよかった。

[ユダ、走り去る]

兵士A

[イエスの腕を取って]さあ、一緒に来てもらおうか

ペトロ

[兵士の足もとにすがりついて]やめてくれ、イエス様を連れて行かないでくれ

兵士B

[刀をふりかぶって]邪魔をすると、本気で斬るぞ!

[悪魔、上手から走って登場]

悪魔

逃げないと捕まるぞー。逃げないと殺されるぞー。

[悪魔、連呼しながら、舞台を走って一周し、下手に走り去る。兵士たち、刀を振り回して弟子たちを脅す。弟子たち、悲鳴をあげながら悪魔について下手に逃げ去る]

兵士A

よし、行くぞ

[兵士がイエスを連行して、ゆっくり上手に退場]

ナレーター

[イエスたちの退場にあわせて、上手を見送りながら]なんていうことでしょう。弟子たちはみんな、イエス様を裏切って逃げてしまいました。[下手を向く]あれ?みんな逃げたと思ったら、一人だけ戻ってきましたよ。だれでしょう。

[ペトロ、下手から、様子をうかがいながらおどおどと登場]

ペトロ

なんとかしなくちゃ。なんとかしてイエス様を助けなくちゃ。

[ペトロ、ぶつぶつとセリフを繰り返しながら上手に退場]

ナレーター

ペトロ一人でなんとかできるのでしょうか。でもこうなったら、ペトロだけが頼り。ペトロさん、がんばって!

第三場

大祭司の庭(ペトロの裏切り)

ナレーター

兵隊につかまったイエス様は、大祭司カイアファのところにつれてこられました。これからここで裁判がひらかれるのです。イエス様は悪いことは何もしていません。でもカイアファが「イエスが犯人だ」と言ったら、イエス様は死刑にされてしまうのです。その前にペトロはイエス様を助け出せるのでしょうか。

[ペトロ、上手から、様子をうかがいながら登場]

ペトロ

イエス様だいじょうぶかな。心配だな。どうやったら助けられるかな。

[女中A、ペトロの背後から登場。ペトロはまだ気づいていない]

女中A

どっかで見た顔なんだけど。。。[ペトロの背中を叩く]ちょいと、あんた!

ペトロ

[驚いて転びながら]うわっ、な、なんだ?

女中A

あ、思い出した。あんた、イエスの弟子だね?

ペトロ

[うろたえながら]え、あ、ち、違う!

女中A

違うもんか。[上手を振り向いて]ちょいと、みんな来ておくれよ。

[上手から女中たち登場。ペトロ、舞台奥へあとずさる]

女中A

ねえ、この人イエスと一緒にいた人じゃない?

女中B

あ、本当だ。見たことある。

ペトロ

[立ち上がり、舞台奥の壁に張りつく]ち、違う。違うんだ!

女中C

違わないわよ。でもすごい勇気ね。見つかったらあんたも捕まるかもしれないのに。

ペトロ

[だんだん声が上ずってくる]つ、捕まる?

女中A

捕まったら、殺されるかもしれないのに。

ペトロ

[悲鳴の一歩手前くらい]こここ殺される?

兵士A

[上手から声だけ]どうした騒々しい。何かあったのか?

[悪魔、下手から走って登場]

悪魔

[ペトロのまわりをおどけて回りながら]捕まったら殺されるぞ。捕まったら殺されるぞ。

ペトロ

違う!俺は弟子じゃない。『イエスなんか知らない!』[『〜』の部分を強調して]

[悪魔、不敵に笑いながら、観客席に向かって指を1本立てる。上手から兵士A登場]

兵士A

どうした、何があったんだ。

女中B

この人、イエスの弟子なんですよ。イエスを助けようとして忍び込んだらしくて。

兵士A

[ペトロをにらみつけて]なんだと?きさま、本当か!

悪魔

[舞台を踊るように回りながら]捕まったら殺されるぞ。捕まったら殺されるぞ。

ペトロ

違う!俺は弟子じゃない。『イエスなんか知らない!』[『〜』の部分を強調して]

[悪魔、不敵に笑いながら、観客席に向かって指を2本立てる。兵士A、ペトロを見定めるように、下手へ移動しながら次のセリフ。ペトロは兵士Aを目で追い、上手に背を向ける、以下、兵士Aと女中たちはおおげさな動きをつけてペトロを追い詰める]

兵士A

そういえば、イエスを逮捕したときにいたような気がするなぁ。お前、イエスの弟子だな!

女中C

そうよ、この人イエスの弟子よ。

女中A

間違いないわ。

悪魔

捕まったら殺されるぞ。捕まったら殺されるぞ。

[上手、ペトロの背後から、兵士Bに連行されてイエス登場]

ペトロ

違う!俺は弟子じゃない。『イエスなんか知らない!』[『〜』の部分は絶叫]

[ペトロのセリフが終わるのにかぶせて、鶏の声。同時にペトロ、女中たち、兵士Aはストップモーション。悪魔だけ、不敵に笑いながら、観客席に向かって指を3本立てる。]

兵士B

どうした。なにかあったのか?

[ペトロだけ、兵士Bの声で非常にゆっくりと振り向き、イエスと目が合う。舞台上の全員、ストップモーション]

ナレーター

なんということでしょう。イエス様の言ったとおり、ペトロは鶏が鳴く前に3回も「イエスなんか知らない」と言ってしまったのです。イエス様をとっても好きで、イエス様のためなら死んでもいいとまで言っていたペトロまで、イエス様を裏切ってしまったのです。

悪魔

知〜らないっと

[悪魔、おどけながら上手に退場。次の兵士Bのセリフを合図に、女中たちと兵士たちは同時にしゃべり出す。イエスとペトロは見詰め合ったまま動かず、他は対照的におおげさな身振り]

兵士B

何があったんだよ。

兵士A

ちょうどいいところにきた。いや、実はな、

女中A

ちょっとちょっと、たいへんなのよぉ、

女中B

兵隊さん、(ペトロを指差しながら)この人がね、

女中C

あ、あんたがイエスだね。あんたの弟子がさぁ、

[全員、好き勝手にしゃべっている中、ペトロは非常にゆっくりと観客席に向き直る]

ペトロ

うわーっ![絶叫しながら観客席を突っ切って退場]

女中たち

あ、ちょっとお待ちよ[ペトロを追って退場]

兵士B

[女中たちを見送ってから兵士Aに]なんだったんだ?

兵士A

よくわからん。ま、いいか。行くぞ。

[兵士たち、イエスを連行して下手へ。舞台端でイエスは足を止め、ペトロの去った方を振り返る]

イエス

ペトロ。お前のために祈っているぞ。

[兵士たち、イエスを引いて退場]

第四場

エルサレム市内某所(十字架と復活)

ナレーター

とうとうペトロもイエス様を助けることができませんでした。それどころか、裏切って逃げてしまうなんて。そしてとうとう、イエス様は十字架で死刑にされてしまったのです。でも、わたしたち一人一人を罪から救うためにイエス様が死んでくださることは、そのずっと昔から神様が決めていたことでした。ところで、イエス様を裏切ったユダとペトロはどうなってしまったのでしょうか。あ、二人がやってきました。ユダもペトロも、イエス様を裏切ったことをとても後悔しているようです。。

[上手からペトロ、下手からユダ、登場。離れて呆然と立ち尽くす。もしあれば、それぞれにスポットライトをあて、照明を消す。悪魔登場、ユダの背後に立つ]

ユダ

なぜ、こんなことになってしまったんだ。

悪魔

お前のせいじゃないか。お前がイエスを裏切って、銀貨30枚で祭司長に売ったから、イエスは捕まって殺されたのさ。

ユダ

私が、裏切った、から。

[ユダ、よろめきながら下手に退場。悪魔、ペトロの背後に移動]

ペトロ

なぜ、こんなことになってしまったんだ。

悪魔

お前のせいじゃないか。おまえがイエスを裏切って、自分だけ逃げたから、イエスは捕まって殺されたのさ。

ペトロ

私が、裏切った、から。[ひざまずく]

悪魔

そうさ、お前が裏切ったから。。。

ペトロ

[うなだれて祈る]イエス様、ゆるしてください。神様、ゆるしてください。

悪魔

[突然うろたえて]き、きさま何をしている。やめろ、うぎゃー

[悪魔、悲鳴を上げながら下手に退場。ペトロ、次のナレーションがはじまってから上手に退場]

ナレーター

あれ?悪魔が逃げ出してしまいました。そうです。悪魔は、神様にお祈りする人には絶対に勝てないんです。だって、神様は悪魔より強いし、神様はお祈りする人の味方なのだから。

[照明。スポット消灯。もしあればスモーク]

ナレーター

その後、二人がどうなったかというと、ユダは、

[ユダ、下手からよろめくように登場、舞台奥に倒れる]

ナレーター

どうしたらいいかわからなくなって、死んでしまいました。ペトロのように、ゆるしてくださいとお祈りすることができなかったのです。ペトロはというと、それから3日目のこと。

[下手からイエス、ゆっくり登場。上手からペトロ登場し、イエスのあしもとにひれ伏しながら次のセリフ]

ペトロ

本当に本物のイエス様だ。本当に生き返ったんだ。

イエス

ペトロ。あなたの信仰がなくならないようにと、私は祈っていました。

ペトロ

イエス様、わたしはあなたを裏切ってしまいました。

イエス

ペトロ、もうよい。わたしはいつまでも、お前とともにいるのだから。