ペトロの信仰
登場人物
- ナレーター
- シモン・ペトロ
- アンデレ
- ゼベダイの子ヤコブ
- ゼベダイの子ヨハネ
- イエス
- 隊長
- 兵隊
- 女中
- 大祭司の家来
- 魚
ナレーター | ガリラヤという海のように大きな湖のそばに、ベツサイダの町はあります。そこに、シモンと弟のアンデレ、そしてヤコブとその弟のヨハネという漁師がいました。 |
[上手からペトロ、下手からヤコブ、網(あるいは網に見たてたシーツなど)をかついで登場] | |
ヤコブ | よう、シモン。 |
ペトロ | やあ、ヤコブ。そっちの船はどうだった?魚は取れた? |
ヤコブ | 全然ダメだ。この空っぽの網を見ろよ、1匹も取れねぇ。 |
ペトロ | うちの船もさ。くたびれるだけ損だったな |
ヤコブ | ところで、うちのヨハネ知らないか?ゆうべ帰ってこなかったから、親父がえらい怒ってさ。おかげで今朝は俺が弟の分まで働かされてよ。それで魚が取れればいいけど、これじゃ一人で疲れただけじゃん。 |
ペトロ | うちのアンデレも、ゆうべは帰ってこなかったよ。おかげでかあちゃんが心配してさ。 |
ヤコブ | アンデレもか?(客席に向かって)弟ってのはいつも、家の手伝いは兄ちゃんに押し付けて遊びに行っちゃうんだよな。お兄ちゃんって、損だよな。 |
ペトロ | (客席に向かって)そうそう。うちも子供の頃から、弟が遊んでても俺だけ「お兄ちゃんなんだから」なんて言われてさ。 |
ヤコブ | でもアンデレもヨハネもいないとすると、また二人一緒にヨハネ先生のところかな |
ペトロ | たぶん、そうだろ。お前んとこのヨハネも、名前が同じだからってすいぶんヨハネ先生が好きらしいな。 |
ヤコブ | 仕事を俺に押し付けて、遊びに行ったんならぶっ飛ばすところだが、ヨハネ先生のとこなら、まあいいか。 |
ペトロ | そうだな。聖書と神様のことをちゃんと教えてくれる、いい先生だ。先生と一緒なら、かあちゃんも安心だろ。 |
ナレーター | ヨハネ先生というのは、ヨルダンという川のそばで人々を教えていた人です。バプテスマのヨハネと呼ばれたこの人は、神様からつかわされて、「私のあとから、神様が聖書で約束していた救い主がもうすぐ来るぞ。神様と救い主に喜ばれるように、今、心を入れ替えなさい。悪いことから離れて、聖書の教えに帰りなさい」と伝えていたのです。 |
[アンデレとヨハネ、走って登場] | |
ヤコブ | お、帰ってきたか。 |
ペトロ | ん?どうした、二人ともあわてて。 |
ヨハネ | ぼくたち、救い主に会ったんだ。 |
ペトロ | ヨハネ先生が言ってた、あとから来る偉大な方のことか? |
アンデレ | 今日、ヨハネ先生のところに、ナザレから来たイエスという人が来たんだ。そしたらヨハネ先生が「この方こそ、世の罪を取り除く神の子羊」だって。 |
ヨハネ | それでその人について行って、ゆうべ一晩、その人と話してたんだ。間違いないよ、あの人は神様からつかわされた方だ、救い主だ。 |
ヤコブ | ばっかやろう!そうならそうと、なんで俺たちを呼びに来ない! |
ペトロ | 今その方はどこにいるんだ?すぐに案内するんだ! |
[イエス登場] | |
イエス | 私の話かな? |
アンデレ | あ、イエス様 |
ペトロ | あなたが、、、 |
イエス | 君がシモンだね。チョット君の船に乗せてくれないか。 |
ペトロ | え?いいですけど。よし、アンデレも手伝え。 |
ナレーター | シモンは、イエス様を船に乗せて、ガリラヤの湖に漕ぎ出しました |
イエス | ゆうべは魚は取れたかい? |
ペトロ | 1匹も取れませんでした。たぶん昨日の雨のせいで川から冷たい水が流れ込んで、魚たちは水が温かい向こう岸のほうに行ってしまったんだと思います。このあたりには小魚1匹およいでいませんよ。 |
イエス | ではこのあたりで網を下ろして、魚を取ってみなさい |
ペトロ | 先生、魚を取るプロの私が、今はこっちの岸には魚がいないと言ってるんですよ。でも先生のお言葉ですから、やってみましょうか。 |
[ペトロとアンデレ、網を投げる。魚が網に飛び込む] | |
魚 | ピチピチ(大暴れ) |
ペトロ | うわ、すごい数の魚だ |
アンデレ | 兄ちゃん、網が破けちゃうよお。 |
ペトロ | (岸に向かって)おおい、ヤコブぅ!見てないで、早く船で来て手伝ってくれ! |
[ヤコブとヨハネ、船に飛び乗ってペトロたちのそばに行く。四人で協力して、魚の入った網を岸まで引きずって行く] | |
ヤコブ | なんてこった、こんなにたくさんの魚が取れるなんて |
魚 | ピチピチ(大暴れ) |
ヨハネ | ね、本当に神の人でしょ。 |
シモン | (イエスの足元にひれ伏して)主よ、私から離れてください。あなたは神の聖なる方、私は罪深い者なのです。(*1) |
[ヤコブたちもペトロと一緒にひれ伏す] | |
イエス | 恐れることはありません。あなたたちは今日から私に従って弟子になりなさい。今までは魚を取って市場に持っていく漁師でしたが、これからは人間を取って神様に連れて行く漁師になるのです。(*2) |
ナレーター | こうしてシモンたち4人はイエス様の弟子になりました。この時イエス様は、シモンに「ペトロ」というあだ名をつけたのです。 |
[ペトロとヨハネ、上手から登場。下手に歩きながらの会話] | |
ヤコブ | シモン、じゃなかった、ペトロよぉ、早いもんだな、俺たちがイエス様の弟子になってもう3年も経つか |
ペトロ | もうそんなになるかぁ(下手でドアをノック)イエス様、食事の用意ができましたよ |
[次のナレーションのあいだに、イエスたち登場。全員、床に座る] | |
ナレーター | 今日は過越というお祭りの最初の夜なのです。この夜は、イスラエルの人たちを神様がエジプトの国から助け出したことを記念して、特別の食事を食べることになっていました。 |
イエス | ところで、人々は私のことを何者だと言っていますか? |
ヤコブ | ヨハネ先生が生き返ったのだ、と言っている人が多いですね。 |
ナレーター | 実はヨハネ先生ことバプテスマのヨハネは、ペトロたちがイエス様の弟子になって少ししたころ、悪い王様に捕まって殺されてしまったのです。 |
ヨハネ | 昔の預言者のエリヤが、また神様からつかわされてきたのだ、と言っている人もいます |
アンデレ | 預言者エレミヤだとか、とにかく神様から遣わされた預言者だと言っている人が多いようです |
イエス | では、あなたがたは、私を何者だと思っているのですか。 |
ペトロ | あなたこそメシアです。キリストです。救い主です。生きて働いておられる神様の独り子です |
イエス | シモン。あなたは幸せな人です。私の父である天の神様が教えなければ、誰も私がキリストであることはわからないのですから。私があなたにペトロ、つまり岩というあだ名をつけたのは、人々が固い岩の上に家を建てるように、私はあなたの上に私の教会を立てるからなのです。 |
[一同、ざわめく] | |
アンデレ | イエス様、どうしてそんなことが起こるのですか。いつまでも私たちと一緒にいてください。 |
イエス | これは、私が死ぬことによって神様がすべての人の罪をゆるしてくださるために、神様が決めたことなのです。でも私は三日目によみがえります。だから、ガリラヤでもう一度会いましょう。 |
ペトロ | イエス様、もしもほかのみんなが裏切ったとしても、私だけは裏切りません。 |
イエス | ペトロよ、あなたはそういうけれど、今夜ニワトリが鳴く前に、あなたは三度も「イエスなんか知らない」と言ってしまうでしょう。 |
ペトロ | そんな!たとえご一緒に死ななければならないとしても、イエス様を知らないなんて私が言うはずないじゃありませんか。 |
イエス | あなたが、私を愛していることはよく知っています。だから、今夜「イエスなんか知らない」と言ってしまったあとで、あなたがとても落ち込むだろうと心配しているのです。それで、あなたの信仰がなくならないように神様によくお願いしておきました。だから、私がよみがえったあとあなたが元気になったら、あなたが他の弟子たちをはげますのですよ。 |
ナレーター | みんな、イエス様の話を聞いて不安になってしまいました。せっかくのお祭りの食事なのに、もう食べる元気もありません |
ヨハネ | ねえみんな。今日は神様がイスラエルを助けてくださったおめでたい日なんだから、もっと明るくやろうよ。 |
ヤコブ | ああ、そうだな。しかしペトロよ、「ほかのみんなが裏切っても」とはよく言ってくれたな。あとで覚えてろよ。 |
[ヤコブが話している間に、隊長と兵隊が乱入] | |
隊長 | お前がイエスだな。大祭司様の命令により、逮捕する。 |
兵隊 | さあ立て(イエスの腕をつかんで立ちあがらせる) |
ヨハネ | 何をするんだ! |
ペトロ | イエス様を離せ! |
[ペトロ、兵隊に飛びかかろうとする。兵隊、刀をペトロに向ける] | |
アンデレ | 兄ちゃん、危ない!(ペトロを止める) |
隊長 | 邪魔をする者は斬るぞ |
ペトロ | 離せ、イエス様を助けるんだ! |
ヤコブ | ペトロ、無茶をするな。相手は武器を持ってるんだ。ここは一度退いて、イエス様を取り戻す作戦を考えるんだ |
隊長 | 全員逃げたか。一人くらいは命がけで師匠を守るやつがいるかと思ったが。イエスとやら、お前の教えには、簡単に裏切るようなやつしかついてこないようだな。 |
ナレーター | こうして、イエス様は捕らえられ、裁判所に連れて行かれたのです。 |
[ペトロとアンデレ、忍び足で登場] | |
ペトロ | なんとか、裁判所の庭まで忍び込めたな |
アンデレ | イエス様大丈夫かな。ヨハネたちは? |
ペトロ | 作戦通り、玄関の方に忍び込んで、イエス様を助け出すチャンスを探してるはず。 |
[ペトロたちの後ろから女中登場] | |
女中 | ちょっと、なんですかあなたたちは。こんなところに入りこんで。 |
[ペトロとアンデレ、振り向く。] | |
女中 | (ペトロを指差して)あ!あなた、捕まったイエスの弟子でしょ。見たことあるわよ。 |
ペトロ | (あわてて)違う。私はイエスなんて人は知らない |
女中 | 違わないわよ(後ろに向かって)ちょっと、誰か来ておくれ! |
[大祭司の家来登場] | |
女中 | ほら、この人はあのイエスの弟子だよ。この人がイエスに叱られてるところ、なんども見たもの |
アンデレ | に、兄ちゃん、どうしよう |
ペトロ | (独り言)ここでバレて捕まったら、イエス様を助けられなくなる。(人々に向かって)違うんだ。私はイエスなんか知らない。人違いだ。(アンデレに)おい、行こう |
[ペトロとアンデレ、退場しかける] | |
大祭司の家来 | あ、そのしゃべり方はガリラヤ出身だな。イエスもガリラヤ出身だし、やっぱり仲間か。 |
ペトロ | 違うんだってば。私はイエスなんていう人のことは知らない! |
[ニワトリの声。ペトロとアンデレ、顔を見合わせる] | |
アンデレ | 兄ちゃん、ニワトリが鳴く前に3回も「イエスなんか知らない」って。イエス様が言っていた通りに。 |
ペトロ | うわぁー!(泣き叫びながら走り去る) |
アンデレ | あ、兄ちゃん!(ペトロを追って走り去る) |
[次のナレーションのあいだに、女中たち退場] | |
ナレーター | なんていうことでしょう。イエス様となら一緒に死んでもいいとまで言っていたペトロも、イエス様を裏切ってしまいました。こうして弟子たちは誰もイエス様を助けることができず、それどころかみんな逃げてしまったのです。そうしてイエス様は、十字架にはりつけにされて殺されてしまいました。でもこれは、一つも罪のないイエス様が私たちみんなの代わりに死ぬことで、私たちの罪が神様にゆるされるようになるために、神様が決めたことだったのです。さて、ペトロたちが逃げてイエス様が殺された日から三日目になりました。 |
[ペトロ登場] | |
ペトロ | (がっかりした様子で)イエス様が。。。イエス様が死んでしまった。私のせいでイエス様が。 |
[イエス、そっと登場してペトロのうしろに立つ] | |
イエス | どうして君のせいなんだい? |
ペトロ | (前を向いたまま)私が裏切ったからなんです。イエス様が捕まる時、裏切って逃げ出してしまった。 |
イエス | それは言っておいたでしょ、みんな私を裏切るよって。 |
ペトロ | 裁判所に忍び込んだ時も、3回も「イエスなんか知らない」と言って裏切ってしまった。 |
イエス | それも言っておいたでしょ、ニワトリが鳴く前に3回そう言うよって。 |
ペトロ | え?言っておいたでしょって? |
ペトロ | イ、イエス様ぁ!? |
イエス | やあ! |
ペトロ | どうして?殺されてしまったイエス様が!? |
イエス | それも言っておいたでしょ、3日目によみがえるから、ガリラヤで会いましょうって |
ペトロ | あ!? |
イエス | さて問題です。もうひとつ私が言っておいたこと、おぼえてるかな? |
ペトロ | イエス様がよみがえったら元気になって、ほかの弟子たちをはげましなさいって |
イエス | はい、よくできました。じゃあ、さっそくそうしなさい。 |
ペトロ | は、はい!(客席に向かって)みんなぁ!イエス様がよみがえられたぞぉ!元気を出すんだぁ!イエス様はいつも私たちと一緒にいてくれるんだぁ! |
ナレーター | こののちのペトロは、まるで人が変わったようでした。あんなに落ち込んでいたのがウソのように、仲間の弟子たちを元気にはげまし、そしてまだイエス様を知らない人たちに力強くイエス様を伝えて行ったのです。 |
[了] |
*1 あるいは聖書のまま「主よ、わたしから離れてください。わたしは罪深い者なのです」
*2 あるいは聖書のまま「恐れることはない。今から後、あなたは人間をとる漁師になる。」