熱闘!ブロンコス1996

第17回:第15週


プレイオフをかけてどこだって一つも負けたくない今週は、各スタジアムとも波乱に満ちた試合となった。

マイアミ。カウボーイズを90年代最強と呼ばれるまでにしながらオーナーとの確執でカウボーイズを飛び出し、優勝請負人としてドルフィンズのヘッドコーチに就任したジミー・ジョンソン。QBとして手にしていない栄光はスーパーボウルリングだけと言われながら、ベテランとして毎年引退をささやかれるようになってしまったダン・マリーノ。

優勝候補と言われ続け、今年こその意気込みも強いドルフィンズであったが、先週までで6勝7敗。残り全て勝った上で上位チームがコケるのを待つしかないドルフィンズのプレイオフへの夢を、ジャイアンツが砕いた。

スコアは17対7。

別に性格が悪いわけではないのだが、こういうときの西村は底意地の悪い顔をする。ジャイアンツの勝利よりも、ドルフィンズの最後の希望を葬ったことで、ただでさえつむっているように細い目をいっそう細めた笑顔を作った。

そのジャイアンツの結果以上にファルコンズの結果が気になる西村だが、11敗同士の弱小対決はファルコンズが敵地でセインツを31対15で下していた。ラムズがベアーズに負けたため、NFC西地区の順位のビリ争いは

ラムズ4勝10敗
ファルコンズ3勝11敗
セインツ2勝12敗

となった。来週はファルコンズ対ラムズ(ファルコンズのホームゲーム)があり、まだ自力で地区3位にあがるチャンスがある。そこでジャイアンツがセインツ戦を勝てば、ファルコンズの単独最下位はなくなる計算だ。

弱小同士の潰しあいともいえるが、とりあえずファルコンズ勝利を伝えようと、西村はめぐみの職場にダイアルした。

下位3チームは放っておいて、NFC西地区の上位2チーム、常勝49ersと新興パンサーズは今日、49ersのホームで直接対決となった。同地区内はホーム&アウェイで2度対戦があるのだが、今季パンサーズのホームでの試合は、去年できたばかりのチームのパンサーズが勝っている。ちなみに去年の結果は1勝1敗だったが、さて結果は。

パンサーズのQBのコリンズが327ヤードを投げ、3っつのタッチダウンパスを決めるなどで30対24で勝ってしまったのだ。49ersのQBヤングは、確かに体がぼろぼろかもしれない。それにしても、2年目のチームがあの49ersに2連勝するとは。

パンサーズも49ersもこれで10勝4敗。他のスタジアムの結果もあって、両チームともプレイオフ出場が決まったが、勝率が同じだが直接対決で2勝したパンサーズの方が現時点で地区トップである。それにしても、チーム結成2年目でプレイオフ出場はNFL史上初だ。

結成2年目のもう一チーム、AFC中地区のジャガーズは、オイラーズとアウェイで同地区内対決。この地区はトップのスティーラーズが、プレイオフへ一縷の望みをかけるチャージャースを16対3という、試合展開はどうあれ勝てば官軍とでもいうような勝ち方で10勝4敗地区優勝を決めたため、プレイオフに出る条件がさらに厳しくなってきている。

6勝7敗のジャガーズは、負ければプレイオフに出られないところだが、チャージャース出身のランナーであるミーンズが2TDを上げる活躍で、7勝7敗のオイラーズを23対7で破って望みをつなげた。オイラーズにとっては取りこぼし以外の何者でもない。

7勝なら、数字の上ではまだジャガーズにもプレイオフのチャンスはある。パンサーズに続いてジャガーズも出てくるようなことがあれば、前代未聞どころの話じゃなくなる。あとの2試合はシーホークス(6勝8敗)、ファルコンズ(3勝11敗)相手にホームゲームだから無理な話じゃあ、ない。

取りこぼしといえば、こちらもそうだ。先週までチーフス、ペイトリオッツとともに9勝4敗でプレイオフ戦線の先頭集団にいたビルズが、シーホークス相手に18対26でまさかの敗退。この間にペイトリオッツは、気の毒なほど勝てないジェッツをホームで撃破し、ビルズをかわして地区トップとなる10勝目でプレイオフ出場を決めている。

チーフスはと言えば、アウェイでレイダースとの雨中のマンデーナイト戦だったが、レイダースの方がQBホステトラーのタッチダウンパス2発などで26対7で勝利。3連勝で7勝7敗としてプレイオフの望みを取り戻すとともに、チーフスのプレイオフ出場決定を保留にしてしまった。

ヒゲが洋物のポルノ男優を思わせるホステトラーは、もとはジャイアンツの控えQBだった。当時のジャイアンツの先発QBは名手シムズだったが、ケガでプレイオフの試合に出られなくなった。それでホステトラーに登板機会が巡ってきたのだが、順調にプレイオフを勝ち進んでスーパーボウルに出場、そのまま優勝してシンデレラボーイとなったのである。

あの栄光をもう一度と燃えるホステトラーに対し、プレイオフに出るにはもう一つ勝てばいいと思ってしまったのだろうか、第12週までは好調に地区トップだったのに、ブロンコスに負けて以来チーフスは元気がない。スターティングQBのボウノが出場していないのは不調のためかケガのためか。

「喝を入れんかい!」

16戦全勝を予想していた水上であったが、語気荒くなるしぼみぶりである。

コルツは木曜日の試合で、イーグルスを37対10で破っている。ここでAFCの状況を整理すると、

地区優勝ブロンコス(西)、スティーラーズ(中)
プレイオフ決定ペイトリオッツ(10勝)
9勝ビルズ、チーフス
8勝コルツ
7勝オイラーズ、ジャガーズ、レイダース、チャージャース

となった。

残り2試合だから9勝の2チームが有利と言いたいところだが、今週の調子では予断を許さない。

今週の注目度No.1は、なんと言ってもブロンコス対パッカーズであった。ここまでブロンコスは11勝1敗、パッカーズは10勝2敗で、ともにスーパーボウル出場候補であり、他のチャンピオンシップ(AFC、NFCそれぞれの決勝。勝てばスーパーボウル出場)常連が振るわない中で、スーパーボウルはこのカードになるとの見方がおおかたである。

舞台はパッカーズのホームフィールドである。パッカーズはエースQBのブレット・ファーブが登場。

「逸材とは思ったけど、こんなに早くスーパーボウルを狙えるところまでくるとは思わなかったよなぁ」

正木がインターネットを覗きながらつぶやいた。解説者の中にはパッカーズを推す声も多かったのだが、NFCは当分49ersとカウボーイズの2強だと思っていたのだ。

これからのQBは、おそらくこのファーブあたりが中心なっていくのだろう。その後にはペイトリオッツのドリュー・ブレッドソーなんかが続いていく。ムーンはもちろんのこと、エルウェイやマリーノ、ケリー辺りはもうベテランだし、ヤングは相当体を痛めていそうだ。世代交代の時なのかもしれない。

今日の試合はだから、ファーブ対エルウェイの新旧対決と言えるだろう。と思ったのだが、

「エルウェイが出場していない!?」

一瞬、近年の悪夢がよみがえる。シーズン終盤にエルウェイが負傷で出場不可能になるパターンか?必死の形相で、全面に英文が表示されたディスプレイの解読にかかる。しかし数分して、どうやら温存しただけらしいとわかり、吹き出していた汗をようやく拭うことができた。

で、結果の方はと”Recap”(要点)の表示をクリックした。出てきた表示は、”Packers 41, Broncos 6”

「ぐぇぁっ!」

あるいは、”ギャッ”とか、”ビャッ”とも聞こえる奇声が、正木の口からほとばしった。正木の同僚達も、昼休みに正木がパソコンの前で大騒ぎするのにはいい加減慣れてきていたが、それが思わず驚いて振り向くほどの怪鳥のような悲鳴であった。そして皆が振り向いた先では、正木が硬直していた。

時間が止まったように、ピクリともしない。ただ表情だけが、多少老け込んだように見えるのは、気のせいだろうか。絵のモデルでも、もう少しは動いてしまうだろうに。微動だにしないとは、こんな状態だろう。

「おい、死んだんじゃないか?」

まわりからそんなヒソヒソ声が出初めてしばらく経ち、ようやく正木がまばたきした時、

「おーっ、生きてる生きてる」

まわりから、散発的ながら拍手さえ上がった。

「んじゃ、食事に行きますか」「危うくメシがまずくなるところだった」

三々五々立ち上がり、地下の食堂へ降りていく。唯一藤代だけが、正木の顔をのぞき込んで声をかけた。

「ブロンコス負けちゃったんすかぁ?」

黙って正木がディスプレイを指さす。その先を目で追った藤代も、

「あらー」

と言ったきり、言葉が続かなかった。

「エルウェイを温存するのはいいけどな、これじゃ志気に関わるぜ」

ファーブは4本のタッチダウンパスを決めている。一方のブロンコスはフィールドゴール2本のみ。これは、ブロンコスのオフェンスはエルウェイ抜きでは何もできないという意味か。

「去年の夏のアメリカンボウル見たか?」

「ええ。エルウェイが引っ込んで控えQBに変わったとたん、オフェンスが空回りしたんすよね」

ブロンコスは95年8月のアメリカンボウルで来日し、東京ドームで49ersと対戦した。プレシーズンゲーム(オープン戦)として行われるアメリカンボウルは、NFLを生で観戦できない日本やヨーロッパなどのファンへのサービスという意味と、選手をふるいにかけるという意味を持つ。1チームが保有できる選手の人数は決められており、キャンプから開幕に向けて人数を絞り込むのだ。当落線上の選手は、プレシーズンゲームで実力をアピールできなければチームを去るのみとなる。

アメリカンボウルでも、チーム残留が決まっているようなスター選手は、ファンサービス程度に少し出場するだけで、あとは控え選手をどんどん試合で使って実力を見ることになるのだが、あのときはエルウェイの後に出てきたQBが、インターセプトは喰らうわ落球するわで最悪だったのだ。

「もし今後、エルウェイが負傷欠場なんてことになったら」

「立て直されてきているとは言っても、ディフェンスだけで勝てるほどスーパーボウルは甘くないだろうな」

エルウェイはブロンコスにおいて、まさにボーリングのヘッドピンなのだ。ヘッドピンが倒れれば後ろのピンがバタバタ倒れるように、エルウェイが倒れればブロンコスは終わってしまうだろう。

NFC東地区では、先週8勝で並んでいた3チームから、先に述べたようにイーグルスがまず脱落。カウボーイズは格下のカージナルス相手に、これもいやらしい展開で10対6と勝って9勝目、レッドスキンズはNFC中地区最下位のバッカニアーズに10対24で破れた。

NFC中地区ではバイキングスがライオンズに24対22で辛勝して8勝目を上げ、プレイオフの望みをつなぐ。この結果、

地区優勝パッカーズ(中)
プレイオフ決定パンサーズ、49ers(ともに10勝)
9勝カウボーイズ
8勝イーグルス、レッドスキンズ、バイキングス

となっている。7勝はいないため、9勝と8勝の4チームで、東地区優勝も含めて残り3っつのプレイオフ出場権を争うことになった。

次週(第16週)

ブロンコス
vsレイダース(レイダースのホームゲーム)
チーフス
vsコルツ(コルツのホームゲーム)
ジャイアンツ
vsセインツ(ジャイアンツのホームゲーム)
ファルコンズ
vsラムズ(ラムズのホームゲーム)

−To be continued.−


注記

チャンピオンシップ

AFC、NFCそれぞれのカンファレンスの決勝戦。勝てばスーパーボウル出場となる。

アメリカンボウル

NFLとしては日本を有力な市場と見ていたらしく、ブロンコスや49ersをはじめ、人気チームや前年度スーパーボウル出場チームなどを日本での試合に送ってくれていた。しかしスポンサー不足から97年は開催されない方向で、今後は隔年開催となるらしい。

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