熱闘!ブロンコス1996

第16回:第14週


レギュラーシーズン第14週。

12月3日、西村はスポーツ新聞のNFL欄を開いた。購読している朝日新聞はNFLの扱いが非常に小さいのだ。

まず目に飛び込んできた見出しは”パッカーズ首位独走”だった。NFC中地区のパッカーズはベアーズを下して10勝目をあげ、2位のバイキングスとは星3っつの差である。あいかわらずQBのファーブは氷点下の試合に強いようだ。

日本ではレイダースと並んで昔から人気のドルフィンズがついに7敗となり、プレイオフが絶望的になったことを報じるものもあった。

NFC東地区の混戦を取り上げた新聞もある。イーグルスがジャイアンツを破って連敗を3で止め、カウボーイズ、レッドスキンズと並んで8勝で同率首位となったのだ。抜け出せば地区優勝は8年ぶりになる。イーグルスは4年ぶりの完封勝利である

「いくらなんでも、0負けしなくてもよさそうなもんだ」

昨日インターネットで結果を見ていたとはいえ、あらためてジャイアンツの無様を突きつけられると、情けなさに怒る気もしなけりゃ泣く気にもならない。力のない笑いが顔に張り付くだけだ。

ところで、284ヤードを稼いでイーグルスを勝利に導いたQBタイ・デトマーは、学生の年間MVPに贈られるハイズマントロフィーの受賞者であった。大学3年の時、オフェンスの25の部門で全米記録を次々に塗り替え、当時日本で開催されていた”コカコーラ・ボウル”(全米学生オールスター戦)に出場のため来日したこともあった。

ところが、他のポジションはともかくQBでハイズマントロフィーを手にした選手はプロでは通用しないというジンクスがある。システマティックなスポーツであるアメフトではチームごとの戦略に個性が強いため、オフェンスの要であるQBで学生時に完成してしまった選手は入団したチームのオフェンススタイルにマッチさせるのが難しいのかもしれない。デトマーも92年にドラフト1位でパッカーズ入りしたが指の負傷などもあって鳴かず飛ばずで、去年イーグルスに移籍したのだ。

ハイズマンウィナーのQBでスーパーボウルを制したのは、伝説のように語り継がれるロジャー・ストーバックとジム・ブランケットの二人だけ。最近では、よっぽどドラスティックにチーム改造しようとしているチームでもない限りは、ドラフト上位でQBを指名することはまれになりつつある。今年ノってるデトマーが、ジンクスを破りイーグルの翼ではばたくことができるか、注目である。


ジャイアンツファンの西村と同様に、ファルコンズファンのめぐみもブルーだった。プレイオフがどーのという話題からは遠く離れ、一つでも順位を上にというのだけが望みだったが、今週の相手はあの49ersなのだ。

もともとファルコンズファンに”ならされた”だけだったが、試合を見に渡米して以来、愛着がわきつつある。

「ダメな子ほどかわいいって、こういうことだったのかしら」

今週は同じNFC西地区で、ファルコンズと並んで4位のセインツが3位のラムズに破れていた。その結果を見てのマンデーナイトだったのに、いくら49ersが相手とはいえ完敗。

もし万が一ファルコンズが49ersに勝っていれば、パンサーズが単独でNFC東地区トップになれるところだったのだが、カロライナの市民もファルコンズには期待していなかっただろう。

実は正木は、日本社会人リーグのNECファルコンズと、関西学生リーグの立命館パンサーズを応援している。で、パンサーズつながりで隠れカロライナファンであると同時に、今週に限ってはファルコンズを応援してもいた。

おかげで期せずして、アトランタ市民とめぐみの無念と、カロライナ市民の落胆を同時に味わうことになってしまった。もっともカロライナ市民と同様に、それほどは期待していなかったのだが。

「ダン・リーブスもクビかな」

ジャイアンツの結果も見て、正木はつぶやいた。ジャイアンツのヘッドコーチであるリーブスは、その前はブロンコスのヘッドコーチであった。今時のヘッドコーチには珍しく、常にスーツ姿でサイドラインに立つリーブスとエルウェイは、ヘッドコーチとQBとしてチームを隆盛に導いたが、その実は非常に仲が悪かった。主導権を持って司令塔の勤めを果たしたいエルウェイと、鉄の規律でチームをコントロールしたいリーブスの間の溝は年々大きくなっていったのである。

その亀裂が、ブロンコスでのリーブスの任期の晩年には目も当てられないほどになっていたらしい。そして結局チームのフロントは、エルウェイを選択しリーブスを放逐したのである。が、守備コーチから昇格した後任は最悪。マイク・シャナハンを昨季からヘッドコーチに戴いて、ようやくブロンコスは今年復活しつつあるのである。

個人的には、しばしば絶妙の指揮を執るリーブスもお気に入りだった正木としては、どこかでヘッドコーチを続けて欲しいタイプであったが、ジャイアンツを率いるようになってからの成績は芳しくなかった。

そのブロンコスの方は、同地区のシーホークスを相手に、前半だけでも20点もリードし、最終的には34対7で大勝して、3試合を残して地区優勝を決めた。

AFC中地区首位のスティーラーズがレイバンズにまさかの黒星、東地区首位のビルズもコルツ相手に痛い星を落としたため、AFC勝率1位が確定したブロンコスはプレイオフの第一シードを決めてしまったのだ。他地区ではプレイオフ出場を決めたチームさえないというのに、プレイオフ一回戦免除の上、二回戦、カンファレンス決勝の地元開催権を確保したという意味だ。

ワイルドカードプレイオフと呼ばれる一回戦は、地区優勝3チームのうちの成績最下位の1チーム+ワイルドカード3チームの4チームが戦う。このワイルドカードプレイオフから勝ち上がっても、ディビジョナルプレイオフと呼ばれる二回戦はシードされていたチームの地元へ出向いてアウェイで戦うことになる。

それに勝って、カンファレンスチャンピオンシップと呼ばれる決勝に行っても、またアウェイの立場なのだ。それに勝ってようやくスーパーボウル出場となるわけだから、道は遠い。現に、ワイルドカードプレイオフからスーパーボウルに出場した例はきわめて少ない。

そういう意味で、シードされる意義は非常に大きい。それに一試合多ければ、ケガ人の出る可能性が高くなる。シーズンを戦ってきて疲労がたまってきている選手達は、ふとしたはずみでケガしやすくなっていると言えよう。

加えて、これまでも度々述べてきたように、ホームグランドで試合をやれるということはそれだけで勝利に一歩近づいたようなものである。しかもデンバーのマイルハイスタジアムは、プレイオフが行われる頃には吹雪の中だ。アウェイのチームの苦戦は必死で、それがドーム球場のチームや暖かいところのチームだったりしたら目も当てられない。

「スーパーボウル出場は決まったな」

ビルズという、プレイオフに出てからが強いというチームだけが心配だが、焦点はスーパーボウルでどうすれば初優勝できるかに移ってきていると言っていい。 その点で、来週の試合が試金石となる。ブロンコスの第15週の相手は、NFCのスーパーボウル出場候補最右翼であるパッカーズであった。

「それにしても、ここまで復調してくれるとは」

思わず遠くを見る瞳になる正木であった。過去、プレイオフに手が届くのかと気を揉みながら叶わなかったことが幾たびか。今年の序盤からの好調も、どうせまぐれさと思ってしまっていた自分が悲しい。昭和60年の阪神タイガースファンの気持ちが分かるような気がした。いや、ブロンコスの低迷はそこまでひどくはなかったのだが。


ところでAFCで先週の段階で勝ち越していたのは、ブロンコス(11勝1敗)、スティーラーズ、ビルズ(共に9勝3敗)、チーフス、ペイトリオッツ(共に8勝4敗)チャージャース(7勝5敗)の6チームであった。これに続いてオイラーズ、コルツ、ドルフィンズが6勝6敗。

ブロンコスを除き、これらのチームでプレイオフの残り五つの席を争っているわけだが、今週勝ったのはチーフス、ペイトリオッツ、オイラーズ、コルツだけである。

中でもコルツは、直接ビルズを止めている。また、ペイトリオッツはチャージャースを破っての一歩前進。このためAFCのプレイオフ出場レースは、特に第2シード争いは、まだ先が見えない。

地区順位チーム
1位ビルズ(9勝)
ペイトリオッツ(9勝)
1位スティーラーズ(9勝)
2位オイラーズ(7勝)
西1位ブロンコス(12勝)
2位チーフス(9勝)
3位チャージャース(7勝)

シードされるのは地区優勝したうちの上位2チームだから、同じ9勝でもチーフスに権利はない。ビルズ、ペイトリオッツ、スティーラーズの三つ巴戦だ。さらに、絶望的ながらも数字の上では残り3試合でプレイオフのチャンスがあるのが、ドルフィンズ、ジャガーズ、レイダースの6勝7敗組だ。

スーパーボウルに4年連続出場しながら全部負けて執念を燃やすビルズ、名将ビル・パーセル率いるペイトリオッツ、同地区内に敵のいないスティーラーズ、そして90年代に入ってプレイオフに行けなかったことのないチーフスの、現在9勝の4チームはほぼ順当に上がっていくだろう。あと一つ勝って10勝に乗せれば、6勝組は残り全勝しても追いつかない。7勝の2チームと6勝の3チームで、最後の椅子を奪い合う構図になってきたようだ。

NFC東地区で、49ersを向こうに回して地区優勝争いをしているパンサーズも驚異的だが、6勝7敗とはいえこの時点までプレイオフ戦線に踏みとどまっているジャガーズもたいしたものである。

ジャガーズもパンサーズも、去年できたばかりのいわゆるエキスパンションチームであることは、すでに紹介したとおりだ。過去の例に照らせば、エキスパンションチームは結成してから勝ち越すまででも数年かかるのが普通だったのだから、結成初年度の昨季も良かったとは言え、両チームの躍進は予想できた者はそうはいないだろう。

他チームの控え選手など、いわばあぶれ者をかき集めてチームを作らざるを得ないためだが、ラウンドロビン方式のドラフトで上位指名権を与えられたことと、他チームもサラリーキャップの問題などでけっこう簡単に良い選手を放出してくれたことが良かったようだ。しかしこうまでこの両チームが(エキスパンションチームとしては)好調だと、選手を放出したチームも、選手を使いこなせなかった責任やフロントの責任も問われるのではないだろうか。

そこまでは大げさとしても、激烈な誘致合戦を戦い抜いてNFLのフランチャイズシティーとなったジャクソンビルとカロライナの市民が、今年も大喜びしているのは確かだろう。

次週(第15週)

ブロンコス
vsパッカーズ(パッカーズのホームゲーム)
チーフス
vsレイダース(レイダースのホームゲーム)
ジャイアンツ
vsドルフィンズ(ドルフィンズのホームゲーム)
ファルコンズ
vsセインツ(セインツのホームゲーム)

−To be continued.−


注記

イーグルス

フィラデルフィアにフランチャイズを置くNFC東地区のチーム。走るQBカニンガムがオフに解雇され、タイ・デトマーが司令塔となった。

余談だが、同じくフットボールの選手である弟の名はコイ・デトマー。鯛に鯉とはめでたい兄弟である。

ペイトリオッツ

ニューイングランドを本拠地とするAFC東地区のチーム。若くて活きのいいQBブレッドソーを中心に調子をあげつつある。ヘッドコーチのビル・パーセルは、ニューヨークジャイアンツのヘッドコーチとしてスーパーボウル優勝経験がある。

ラウンドロビン方式

前年の成績の悪かった順にドラフトで指名する方式。

サラリーキャップ制度

選手会がFA制を勝ち取ったとき、給料の高騰からオーナーを守るため、チームが選手に払える給料の総額の上限を決めた制度。少数の選手と高額で契約すると、他の選手に払える金がなくなる。FA制と共に、移籍が活発化して二戦級の選手に他チームでの出場機会が与えられることになった。

が、複数年契約の最後の年にチームが金を出せなくなって移籍したムーンの例や、シーズン直前になって解雇されて引退に追い込まれた名手シムズの例もあり、また移籍が多くてファンの方もついて行けなくなるなど、弊害もかなり多い。

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