熱闘!ブロンコス1996

第13回:第11週


1996年11月11日(月)、レギュラーシーズン第11週。

「なんか、巨人大騒ぎだね」

西村のアパートに来た水上は、めぐみが片づけている床に散乱したスポーツ紙を眺めていった。

「清原か落合か、ファンとしてはどっちがいいの」

「両方に決まってる」

西村が即答した。もともとFA制度は、巨人が清原欲しさに導入したなんて話もあるくらいだ。清原の巨人入りは確実だろう。

「そんなにいい選手なのかな清原って。3割打ったこともほとんどないんでしょ」

「清原はどうでもいいから、ヒルマンを返してくれぇ」

ロッテファンの正木が、わざとらしい悲鳴を上げた。

「伊良部がメジャーに行っても、ヒルマンがいればなんとかなると思ってたのに」

「防御率一位(伊良部)と二位(ヒルマン)がいたのに5位になるようなチームには、置いておくのはもったいない」

冷たく言い放つ西村に、正木はぐうの音も出ない。

「それより今日の試合結果だ」

今日は久しぶりに4人が揃うということで、この時間までみんな試合結果にアクセスするのを我慢していたのだ。西村がパソコンをインタネットに接続する。

「そういえばさ、東大アメフト部がプレイオフ決めたってね」

「マジ?」「うん」「わーお」

水上が仕入れてきた情報に、一同びっくりである。

「驚くほどのことなの?」

一人だけ状況がわかっていないめぐみが聞いた。

「すっげぇ弱かったんだよ、東大は。六大学野球と違って入れ替え戦があるから、あんなチームはあっと言う間に二部落ちしていいはずだったのに」

「わりと最近だよな、リーグ戦で全敗したのに入れ替え戦だけ勝って、一部リーグに残ったの」

「えー、そんなの二部リーグのチームにしたら、いい迷惑じゃない」

「だろ?それがプレイオフに出るまでになるとはね」

関東学生アメリカンフットボールは、一部リーグが2ブロックに分かれている。各ブロックで総当たりの結果、それぞれ上位2チームがプレイオフを行い、関東学生No.1を決めるのである。さらに優勝チームは関西学生リーグ・ディビジョン1の優勝チームと学生日本一を賭けて甲子園で戦うのだ。

関西リーグでは京大が実力者で、「いつの日か甲子園で京大vs東大の国立大同士の夢の対決を」という声も聞こえるが、いままでは本当に夢でしかなかった。が、関東も日大の凋落以来、法政大が主導権を握っているとは言え戦国時代の様相。もしかしたら、東大が甲子園ボウルで戦う日がくるということも、無きにしもあらずと言えなくもないこともなくはないんじゃないか、という気がしないこともなくはない。

「おし、つながったぞ。どこから見る?」「ファルコンズから行ってみよう」「OK」

 ”Atlanta at St. Louis”(セントルイスのホームゲームでアトランタ対セントルイス)をクリックする。先週まで1勝8敗のアトランタ・ファルコンズの相手は、同じNFC西地区のセントルイス・ラムズ(2勝7敗)であった。先週初白星のファルコンズ、連勝するには好都合の相手、だったが結果は

「16対59だってぇ」

記録的大差での敗北であった。

「なんでそうなるのよ」

「えーと、ラムズは第1Qにタッチダウン2、第2Qにもタッチダウン2のフィールドゴール1、第3Qにタッチダウン1、第4Qにタッチダウン3」

「一試合でタッチダウン8回かよ!」

「ラムズは、100ヤードラッシャーが二人も出てるぞ。ファルコンズはチーム全体でランが44ヤードなのに」

59得点とは、ただごとではない。一発でディフェンスコーディネータ(守備総監督)の首が飛びかねない。

「最高得点の新記録じゃないのか?」

「いや、確かベンガルズが昔61点とったことがあったはず。これは史上2位だな」

「そういえば、ベンガルズも1勝6敗だったのが、ヘッドコーチがクビになって新しい監督になったとたん3連勝中だろ。ファルコンズもヘッドコーチ交代なんじゃないか?」

「あ・・・」「ん?」

突然男たちが沈黙した。ファルコンズの名前が出たところで、めぐみのことを忘れていたのに気づいたのだ。静まり返っている背後をゆっくりと振り向く。

めぐみはしかし、にこやかな表情だった。すわ怒りを押し殺した微笑かと、却って男たちの間に緊張が走ったが、めぐみはストレートのジンをグラス一杯飲み干し、あっけらかんとして言った。

「どうせ負けるなら、これくらい威勢良く負けた方がすっきりするわね」

3人は顔を見合わせる。めぐみの思考が読めない。

「他の一敗チームはどうだったの?」

「えーと」

大慌てで西村が、バッカニアーズとジェッツの試合結果を呼び出した。

「バックス(バッカニアーズの略称)は延長でレイダーズに勝ち。ジェッツはパッツ(ニューイングランド・ペイトリオッツの略称)に負け」

「じゃあ、まだ単独ビリではないと。あと6試合だっけ、来週の相手は?」

けっこう、ゴキゲンな様子。

「3連敗で2勝8敗のニューオリンズ・セインツ」

「いーじゃない。来週は勝つわよお」

にこやかなままであったが、”勝つわよお”だけがドスが効いた声だった。

数秒間の沈黙。

「つ、次はどこを見ようか」

水上がうろたえながら西村を振り返った。とたんにめぐみが笑い出した。

「冗談よ、冗談。あたしってそんなに怖いかな」

またも男たちは沈黙したあと、期せずしてハモった。

「びびらすなよなぁ」

「えーと、チーフスとブロンコスは最後にするか」

「だね、次はジャイアンツにしよう」

「了解。っと、先にカージナルスを見るよ」

”Arizona at Washington”を選択する。カージナルスとジャイアンツは、目下NFC東地区の最下位争いを展開中。先週の段階ではジャイアンツ4勝、カージナルス3勝で一歩ジャイアンツのリードだったが。

 Arizona 37, Washington 34 (OT)

”OT”はオーバータイムス、つまり延長である。延長の末アリゾナ・カージナルスの勝ち、ジャイアンツの結果次第で再び同率となってしまうのだが、さてジャイアンツは。

西村が”Gaiants at Carolina”を選択した。2連勝中のジャイアンツではあったが、今週はアウェイで、新興チームらしからぬ好調を維持するパンサーズ戦だ。

試合はかなり緊迫したものだった。先行したのはパンサーズだったが、ジャイアンツがタッチダウン2本で14対7と逆転。パンサーズが14対10と追い上げるがジャイアンツが17対10と突き放す。が、パンサーズはタッチダウンを返して同点。さらにフィールドゴールで逆転した後、タッチダウンでとどめを刺した。

  N.Y.Giants 17, Carolina 27

「うーむ、やはりパンサーズを止めるには、ジャイアンツでは役者不足だったか。あれ、おい西村」

いつの間にか、西村がパソコンの前からいなくなっていた。正木と水上が振り向くと、西村はせっかくめぐみが片づけたスポーツ新聞を引っぱり出し、90゜もあるロンリコをなみなみと注いだグラス片手に読売ジャイアンツ関連の記事を漁っている。

「うをーい、現実逃避するなよなー」

「さて、次はチーフスとブロンコスどっちの結果を見ようか」

ブロンコスはホームでシカゴ・ベアーズ戦、チーフスはグリーンベイ・パッカーズをホームで迎え撃つ。

NFCはダラス・カウボーイズとサンフランシスコ・49ersがツインピークス(双璧)と呼ばれてきたが、カウボーイズは負傷者が出たり、主力選手が薬物反応で出場停止になっていたりして、5勝4敗とどうも調子が出ない。49ersも好調パンサーズに背後を脅かされるプレッシャーからか、6勝3敗でペースが上がらない。結果、NFCの優勝は、8勝1敗とハイペースで疾走中のパッカーズではないかとの声が高まりつつある。

今年のスケジュールは、チーフスが今週、ブロンコスは第15週にそれぞれパッカーズと対戦する。すでにチーフスとブロンコスの直接対決は終わっているが、このパッカーズとの対戦結果で最終的な順位を占えるかもしれない。さらに、今週ブロンコスと対戦しているベアーズが、チーフスと来週対戦するのだ。

「やっぱりチーフスでしょ」

水上が先手を取りたがった。チーフスに今のパッカーズを倒す力があれば、ブロンコスを追い抜くチャンスはまだあると見てよい。

「OK、お先にどうぞ」

水上相手に勝ち誇るパターンを計算した上で、正木が譲った。背後でロンリコをあおっている西村に代わって、水上がマウスを動かす。

 ”Green Bay at Kansas City”を選択。切り替わった画面には、

 ”week 11 Chiefs 27,Packers 20”とあった。

「やったね」「やるじゃん」

試合は開始早々、パッカーズとファンの度胆を抜く超ロングパスの成功を皮切りに常にチーフスが先手先手と攻め、一時は27対6と大差を付けた。

パッカーズのQBファーブは、若手ながら実力十分でNFLの次代のヒーローと目されている。しかもファーブは、QBの大敵である寒さに強い。シーズン終盤ともなると屋外の球場では皮製のボールが凍ってしまうほどの寒さとなり、QBはパスを投げるとき、ランナーにボールを渡すとき、指が滑りやすくなる。が、ファーブは氷点下での試合ではルーキー以来無敗という、とんでもない奴なのである。

そのファーブが、パスを主体にチーフスを追い上げる。最終的にはパッカーズはパスでトータル300ヤードを越えるオフェンスを展開していった。がしかし時間切れ。パス攻撃では300ヤードを越える成績だったが、ラン攻撃がトータル75ヤードでは、いかに有望株ファーブといえどもチト苦しかったようだ。それにしてもチーフスは、相変わらず地上戦の守備は強い。

「チーフスに負けてる様じゃ、パッカーズも大したことはないな」

正木が余裕のあるところを見せる。

「あ、そーゆーこと言うんだ。ブロンコスはどうなんだよ」

水上もチーフスの試合結果の詳細をじっくり見たいところだが、それ以上にブロンコスの試合結果が気になるのは正木と同じだ。”Chicago at Denver”を選択する。

画面が切り替わって、ブロンコスのパスとランの中心選手であるシャープとディビスが抱き合っている写真の横に”week 11 Denver Broncos 17,Chicago Bears 12”と表示された。

「あーっ、惜しいなあ」

水上がマジで悔しがる。ほっとした表情の正木が画面を進める。

追い上げるベアーズが、ブロンコスのファウルでエンドゾーン手前わずか1ヤードまで前進。この時点で残り時間は40秒。がしかしブロンコスディフェンスはベアーズのハリスの突進を2回続けて止めた。残り9秒。すでにベアーズは、後半3回とれるタイムアウトを使い果たしていた。

ベアーズ3rdダウンの攻撃はフラニガンへのパス。しかし失敗、残り4秒。ベアーズと、そして水上の祈りの込められた最後のプレーは、エンドゾーンに走り込んだコンウェイへのパスだったが、キャッチすれば大逆転勝利のこのパスは、危ないところでブラクストンがカット。ブロンコス薄氷の勝利であった。

「でも勝ちは勝ちだもんね」

パッとしない勝ち方ではあったが、チーフスがパッカーズを倒してくれたおかげで、勝率はNFL単独一位の9勝目である。AFCだけで見れば、中部地区首位のスティーラーズが負けて7勝で止まったおかげで、プレイオフでのホームフィールドアドバンテージ争いもぐっと有利になった。

残りは6試合。果たしてブロンコスは逃げ切れるのか。

1位ブロンコス9勝1敗(地区内4勝1敗)
2位チーフス7勝3敗(地区内4勝2敗)
3位チャージャース6勝4敗(地区内3勝3敗)
4位シーホークス5勝5敗(地区内1勝4敗)
5位レイダーズ4勝6敗(地区内1勝3敗)

次週(第12週)

ブロンコス
vsペイトリオッツ(ペイトリオッツのホームゲーム)
チーフス
vsベアーズ(チーフスのホームゲーム)
ジャイアンツ
vsカージナルス(カージナルスのホームゲーム)
ファルコンズ
vsセインツ(ファルコンズのホームゲーム)

−To be continued.−


注記

グリーンベイ・パッカーズ

NFL唯一、市民がオーナーという名物球団。最初のオーナーの缶詰業者(パッカー)がチームを売りに出したとき、球団の株を1898人の市民が買った。

第1回、第2回スーパーボウル覇者。ベテラン・ラインバッカーのレジー・ホワイトとQBブレット・ファーブが加入してから、過去どんぐりの背比べだったNFC中地区で再び台頭してきた。

ホームフィールドアドバンテージ

プレイオフの地元開催権。プレイオフの試合はホーム&アウェイではなく1発勝負で、レギュラーシーズンの勝率のよかった方の本拠地で行われる。また、プレイオフ出場は6チームだが、地区優勝3チームの内の上位2チームは1回戦をシードされることもあって、地区優勝を決めたからといって消化試合なんて言ってられない。

前へ 次へ