熱闘!ブロンコス1996

第10回:第8週


1996年10月17日(木)。開幕4連勝と最高の立ち上がりのチーフスであったが、痛恨の2連敗。地区首位の座をブロンコスに明け渡してしまっていた。第7週終了時点での成績は、ブロンコス5勝1敗、チーフス4勝2敗。ちなみにブロンコスの黒星は第4週にチーフスにアウェイで破れたものである。だから、

「チーム力はチーフスの方が上」

水上はそう確信していた。来週のブロンコスとの直接対決で勝てば、勝ち星で並ぶ。ブロンコスは苦手にしているレイダースとの対戦が2試合残っているから、そこでブロンコスが2敗することは十分考えられる。チーフスが地区優勝する可能性は、まだまだ消えていない。

そのためにも落とせない、今日のシーホクスとの同地区対決であった。

その結果は。

チーフスが先制し、TD2本とFG2本で前半を終わって20−3とリード。第3Q始まってすぐにシーホークスがC.ワレンの50ヤード独走タッチダウンで10−20と追撃の構えを見せるが、チーフスも2本のTDを追加して突き放す。試合終了1分前にシーホクスが1TDを返すが遠く及ばず、34−16でチーフスの貫禄勝ち。5勝2敗として、日曜日のブロンコス対レイバンズの結果を待つ。

ブロンコスとしては、来週がチーフスとの直接対決、さらにその翌週が宿命のライバルであるレイダースとの対戦と、地区優勝を狙うために重要な2連戦が控えている。勝ち星5でチーフスに並ばれたが、今後の展開を考えても今日の試合は絶対に落とせないのだが。

「藤代ちょっと来い」

10月21日(月)昼休み、インターネットに接続した正木は、買ってきた弁当をまさに食べようとしていた藤代を呼びつけた。

「えー、ブロンコス負けたんすかぁ?」

「ちょっとこれ見てみろ」

正木が指さした画面をのぞき込んだ藤代は、ちょっと間をおいて思わず言った。

「失礼っすね、これは」

「だろ」

いいながら、二人の目は思いっきり笑っていた。画面の表示は

”AFCの勝率一番はどこかって?デンバー・ブロンコスだぜ、信じられるかい?”

とあった。

「失礼しちゃいますねー」

こんな失礼はない。が、強豪のはずが古豪になっていたここ数年の低迷を考えれば、なかなかな表現かもしれない。アメリカ人の好きそうな言い回しでは、ある。ともあれ、チーフスに追いつかれたプレッシャーなど、どこ吹く風とばかりに、J.エルウェイはTDバスを3本通すわ、T.ディビスは自己最高の194ヤードも走りまくって2度もタッチダウンするわ、やりたい放題でボルティモア・レイバンズを破り、AFC最高の6勝1敗である。

「3連勝じゃないすか、のってますねこれは」

「お、試合後のエルウェイのインタビューが出てるぞ」

”ランもパスも両方イケたからね。ライン(オフェンスライン。オフェンスの一列目)がイイ仕事してくれたよ。こんなラインと仕事ができるのはQB冥利だね、一回も(相手ディフェンスに)ヒットされなかったんだから”

「やっぱり、ラインがいいと攻撃全体がよくなるんだな」

「ですねー」

オフェンスライン(OL)とはフォーメーションの一列目の、やたらと体のでかい選手たちを指す。彼らはパス攻撃の時は、フリーになったレシーバーをQBが捜す間、ポケットと呼ばれる壁を作ってその中にQBを守り、ディフェンスをブロックする。ラン攻撃の時はディフェンスの突進をがっちり止めて、RB(ランニングバック)が駆け抜けるだけの隙間を敵ディフェンスの間に確保する。

彼らは試合の間基本的にボールに触ることはなく、そのため注目されること少なく、激しいぶつかり合いのためか選手生命もそう長くはない。しかしビッグプレーの陰には必ず、人知れぬところでの彼らの働きがある。

プレーが始まったら、ボールを持った選手の3歩ほど先に注目してみるがいい。そこでは、OLを突破してボールに殺到しようとするディフェンスと、体を張ってそれを阻止しようとするOLの激突が見られるはずだ。

今週のブロンコスのようにハイパワーオフェンスを展開するというのは、OLの力無くしてはあり得なかった。ワシントン・レッドスキンズがスーパーボウルに優勝した年、その躍進の陰には、16試合でQBがサック(パスを投げる前にディフェンスに捕まること)されたのがたった9回という鉄壁のOLがあったのだ(1試合で何度もQBサックというのはざらである)。

余談になるが、あるヘッドコーチは、フォア・ザ・チームに徹して黙々と誠実に責任を果たす彼らを評して「もし私が戦場で指揮を執るなら、部下には必ずOLを使う」と言い、またあるヘッドコーチは「うちの娘が選手と結婚したいというなら、相手は花形選手なんかじゃなくOLに限る」と言った。

一番頼りになる奴、安心して背中を託せる奴(背中からディフェンスにタックルされて大けがしたQBの例は多い)、ヒーロー選手の陰で確実に仕事をこなす奴、それがOLなのである。

「この数年、プレイオフがかかった試合にエルウェイが負傷欠場して負けるってのがよくあったろ。OLがエルウェイを守りきれなかったから、シーズン終盤になるほどエルウェイにダメージが蓄積されたんだな」

「ってことは、ディフェンスの改善だけじゃなくOLもかなりよくなってるってことスか?もしかして、今年はスーパーボウル行っちゃうんじゃないスか?」

「レイダースと2試合残ってるから、まだ油断は出来ないな。でもプレイオフには届くぞ、これは」

「とりあえず、来週のチーフス戦ですね」

「おお。アウェイ戦であれだけ僅差に詰めたんだ、ホームなら、もしかするともしかするぞ」


一方ファルコンズであるが、王者(今年は”王者”というには物足りないチーム状況だが)カウボーイズとアウェイで対戦。先制されたものの前半終了間際にFG連発で18−17と逆転、後半も25−17までリードした。同点に追いつかれたが第4Q半ばにFGで28−25と再びリード。

がしかし、残り時間も2分を切ったところでカウボーイズのT.エイクマンが60ヤードTDパスを通して逆転、惜しいところで勝ちを逃がして7連敗となってしまった。

「でもさ、だんだん、いい調子になってきてるよね」

西村のアパートでグラスを傾けながら、めぐみが言った。決して笑顔というわけではないが、不本意ながら弱小チームを応援させられているという不満は消えているように見える。

西村は西村で、TVのプロ野球関係のスポーツニュースに食い入るように集中している。NYジャイアンツもレッドスキンズ相手に黒星だったのだ。それより読売ジャイアンツ対オリックスの日本シリーズの方が大事だ。

「もうちょっとだと思うんだけどなぁ。こら、聞いてるのか?」

そう言って、けっこうご機嫌にできあがりつつあるらしいめぐみは、西村の後頭部に、氷を投げつけた。酔って手加減しそこねたのか、いい音がした。

「だぁっ!なにすんだよ」

「来週のファルコンズの相手は?」

「いってぇなぁ、ったく。えーとファルコンズの相手は、ありゃ、スティーラーズだ」

「何、その”ありゃ”って。強いの?」

「去年のAFCチャンプ」

「ありゃ」

でもまあ、今週カウボーイズ相手にここまでがんばれたんだから、期待できなくもない、のかな。

次週(第9週)

ブロンコス
vsチーフス(ブロンコスのホームゲーム)
ジャイアンツ
vsライオンズ(ライオンズのホームゲーム)
ファルコンズ
vsスティーラーズ(ファルコンズのホームゲーム)

−To be continued.−


スティーラーズ

鉄鋼(スティール)の街ピッツバーグのチームで、AFC中部地区の名門。90年代のカウボーイズ、80年代の49ersに対し、70年代最強チームとされている。そのパワフルなディフェンスは、ベルリンの壁をもじってスティールカーテンと呼ばれた。昨シーズンのスーパーボウルに出場。今年夏にチャージャーズとともに来日し、プレシーズンゲーム(オープン戦)とはいえプロの試合を東京ドームで見せてくれた。

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