熱闘!ブロンコス1996

第9回:第7週


結局神林めぐみは、デトロイトのポンティアック・シルバードームから車で小1時間ほどのところにある、おじさんの家に2泊した。そこまで話が行ってからようやくおじさんの名前を知ったというのだから、「銃と暴力の国」としばしば報道されるアメリカで、めぐみも剛胆というか無鉄砲というか、いい度胸をしている。

火曜日になってめぐみは、同じくファルコンズvsライオンズを見に来てバレンタイン氏の家に泊まり込んでいたアトランタっ子のジョン・マクレガーの車に乗せてもらって、一路ジョージア州アトランタへと向かったのであった。当然のように、アトランタではジョンの家に泊めてもらう約束となっている。

1996年10月13日(日)、めぐみとジョンは連れだって、アトランタ・ファルコンズの本拠地ジョージアドームに足を運んだ。チケットは、どうやったのか知らないがジョンが入手してくれていた。

(ついこの前オリンピックを見に来たときは、もう一度ここに来るとは思わなかったわね)

何しろオリンピックの時は、会場エリアに近い辺りのホテルは全てスポンサーが押さえ、全米および世界中から集まった人々は離れた宿に泊まらざるをえなかったのだ。しかも交通の便がよくない、というより非常に悪かった。さらにテロ騒ぎのおかげで日替わりで通行止めの道が変わるものだから、バスもタクシーもあてにならない上に歩いても遠回りばかりさせられた。TVではアメリカ人選手の出る種目・試合しかやらないし、それもバスケットのドリームチームの試合さえ途中で水泳のアメリカ人の表彰式に切り替わったりして、観客無視・視聴者無視のサイテーのオリンピックだったのだ。めぐみも、2度とこんなところ来るものかと思ったものだ。

しかし今回は多少、気分も軽かった。5連敗中とはいえ、先週の試合の感じならディフェンスはけっこう期待できそうだ。しかも今日の相手のヒューストン・オイラーズは、今季はそこそこ調子いいとはいえ、ウォーレン・ムーンを放出してからは強いチームとは言い難い。

ファルコンズのオフェンスも、そうそうブザマはしないだろう。万一負けて開幕6連敗などということになれば、1985年以来の失態である。

「今日は勝つ!」

めぐみの意気込みに、少々圧倒されているジョンであった。

が。

またしてもファルコンズは黒星を重ねてしまったのである。ファイナルスコアはファルコンズ13−23オイラーズであった。

ディフェンスはそこそこがんばったのだ。とは言っても、あくまでも「そこそこ」だが。タッチダウンは2度に押さえたが、もうひと踏ん張りが利かず、フィールドゴールを4本通された。

それより問題はオフェンスだ。第3Qまで敵陣40ヤードをさえ一度も突破できず無得点。第4Qにタッチダウンを2本返したが、日本の野球ニュース風に言えば「反撃もここまで」というやつだ。パス攻撃はトータル268ヤード前進で、まぁまぁの合格点だが、ラッシュ(ラン攻撃)がトータルたったの55ヤードしか進めなかったのだ。ランを止められるから、仕方なくパスに頼る。そこを読まれて、2回のインターセプト。

勝つためには、パスとランをどれだけバランスよく使うかが重要である。

例えば。95年度の関西学生アメリカンフットボールリーグ最終戦は、立命館大学対京都大学の全勝対決となった。前年度覇者の立命館は、QBに3年生ながらパスの天才と呼ばれる東野を擁していたが、相手ディフェンスの前にラン攻撃が伸びなかったために、京大の前に膝を屈する無念を味わうこととなった。

デンバー・ブロンコスの低迷も、ディフェンスの強化を手抜きしたこともさることながら、J.エルウェイの右腕に頼りパスレシーバーの強化にばかり力を入れたことと、チームのエースランナーの負傷により、パス偏重のチームとなっていたことも理由に挙げられる。今年のブロンコスの久々の快進撃は、ほとんど毎試合100ヤード以上走ってくれるT.ディビスの活躍で、相手チームがエルウェイのパスとディビスのランの両方をカバーしなければならなくなっていることが大きい(しかもエルウェイは自分でも走るタイプだ)。もちろんディフェンスの復調も無視してはならないのだが。

ともかく、今日のファルコンズのようにランで55ヤードしか進めないチームが勝つには、”超”のつく一流QBがいたとしても困難なのである。

「いつ勝てるんだろうね」

ジョンの車で空港まで送ってもらう道すがら、めぐみはつぶやいた。日本語は分からないものの、表情からそれと察したのか、ジョンは「いつか勝てるさ」というようなことを言った(らしい。めぐみも英語はよくわからない)。

「早く勝つところを見たいな」


「そういえばさあ、めぐみは今季からファルコンズを応援してるんだから、ひいきチームの勝利を一度も知らないことになるんだよね」

日本時間で月曜夜。例によって西村のアパートで酒盛りしているときに、水上が誰に言うともなく言った。

「俺も応援に行った試合でロッテが勝つところ見たことないぞ」

台所で肴を造りながら、正木が応じた。千葉に移転する前年からのロッテファンだから、ロッテ時代の落合も知らなければ”サンデー兆治”こと村田も知らない。好調だった去年観戦に行けばよかったのだが、弱小チームファンの悲しさか勝利がまぐれにしか思えず「どーせ負けるさ」と思っているうちに好機を逃してしまったのだ。

「大変だよなー、弱いとこだと」

西村が勝ち誇る。ついに長嶋巨人が11.5ゲーム差をひっくり返して優勝したのだから、もう狂喜もいいところだ。

「メイクドラマ」を連発する西村に水上が「メイクドラマってドラマをメイクするんだろ?メイクドラマの完結じゃなくてドラマの完結じゃないかな」と冷静に突っ込むが、馬耳東風というかなんというか。

サンフランシスコ・ジャイアンツがドジャースとパドリスの地区優勝に絡むことなく地区最下位になったこと、今週ニューヨーク・ジャイアンツがイーグルスに勝てば地区2位タイだったにもかかわらず10−19で敗退して地区最下位タイであることなど、どうでもいいらしい。

今週、AFC西地区首位のブロンコス、星一つ差のチーフスはともに試合なし。次週はチーフスが木曜日のナイトゲームでシアトル・シーホークスと対戦、ブロンコスはボルティモア・レイバンズを迎え撃つ。その翌週に両チームはマイルハイスタジアムで対戦するため、チーフスとしては木曜に6勝目を上げてブロンコスにプレッシャーをかけておきたいところだ。

次週(第8週)

ブロンコス
vsレイバンズ(ブロンコスのホームゲーム)
チーフス
vsシーホークス(チーフスのホームゲーム)
ジャイアンツ
vsカウボーイズ(カウボーイズのホームゲーム)
ファルコンズ
vsレッドスキンズ(レッドスキンズのホームゲーム)

−To be continued.−


注記

パドリス

メジャーリーグのサンディエゴのチーム。日本の報道では「パドレス」だが、作者の友人でサンディエゴにホームステイ経験のあるファンが「パドレスじゃなくてパドリス!」と主張していたため、本文中ではファンの使ってた発音を使用(どうでもいいか)。

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