熱闘!ブロンコス1996

第8回:第6週


NFL第6週、1996年10月6日(日)12:40(米国東部時間)。神林めぐみは、デトロイト・ライオンズの本拠地である、ポンティアック・シルバードーム(ミシガン州)に現れた。

今日のこのスタジアムでの試合は、ライオンズに対し、全敗中のアトランタ・ファルコンズがビジターとして挑む。試合開始は13:00。キックオフ後ならダフ屋から安くチケットを買えると聞いていたので、適当に時間をつぶす。めぐみはファルコンズのファンという事になっているが、自ら望んでのことではないので、チケットが安くなるなら試合開始の瞬間を見逃してもどうということはなかった。

ドームから歓声が響いてきたのを合図に、度胸だけの英会話でチケットを入手。

この辺りの交渉テクニックは、オリンピックを見にアトランタに行ったときに体得している。バドワイザーとポップコーンを買ってようやく席に着いた時には、第1Qも残り10分を切った頃、ライオンズ2回目のドライブが始まっていた。

すでにファルコンズ陣内に攻め込まれている。ライオンズのQB、S.ミッチェルのパスがB.サンダースに通って、ボールはファルコンズ陣内11ヤード。さらにパスを一本通して、最後はミッチェルが自らエンドゾーンに持ち込んでタッチダウン。

キックも決まって、ライオンズがあっさり7点を先制した。

続くファルコンズの攻撃はQBがショットガンフォーメーションからのパスを織り交ぜて進めるが、3rdダウン8ヤードでパス失敗となり、あえなくパント。

「ん?背番号3?」

ファルコンズのQBって、背番号1のジェフ・ジョージじゃなかったっけ?予備知識と違うな、と、めぐみは隣の席の小錦体型のおじさんに訊いた。

「Jeff George?」

「No, Hebert.」

おじさんは巨体を揺すりながら長々と説明してくれていたが、ほんの1割も聞き取れない。時々冗談を言っているのか、一人で笑っていたりしているが、あいまに「not active」とか「suspended」とかの単語が混じるところから察するに、今日はJ・ジョージは出場していないらしい。

話している(一方的に聞いている)内に、ライオンズがまたファルコンズ陣内に攻め込んできたが、今度はディフェンスががんばってパントに追い込んだ。しかし続くファルコンズの攻撃も10ヤードと進まない内にパントになる。

ライオンズの攻撃になって第2Qに入ったところで、ミッチェルがTDパスを通して0−14と点差が開いた。次のファルコンズの攻撃も1stダウンは一回だけで、前半終了4:31前にミッチェルがさらにTDパスをヒットして0−21。次のファルコンズの攻撃は3回連続パス失敗で、1ヤードも進まずにパントになった。ファルコンズ応援団からのブーイングが、シルバードームにこだまする。

調子づいてきたライオンズは自陣27ヤードからの攻撃をハーフウェイラインまで前進。そこからミッチェルがムーアに50ヤードのTDパスを通して、まだ前半が終わってないというのに0−28の大差となってしまった。

「やっぱり、来るんじゃなかったかなぁ」

あまりに応援しがいのないファルコンズの状況に、めぐみは隣のおじさん&その仲間たちと、試合そっちのけで宴会モードに切り替わっていた。もし、ロッテファンの正木が見ていたら「川崎劇場の外野席状態」と形容したであろう。ファンの中には、こんな弱小チームのファンであることが恥ずかしいという意味だろう、目のところだけ穴を開けた紙袋をかぶって顔を隠すというパフォーマンスで観戦する人もいる。

がしかし、ファルコンズは前半終了間際にかろうじて意地を見せた。第2Q残り1:57、自陣19ヤードからのシリーズを、ショットガンフォーメーションからのパス主体の攻撃で、時計を止めながらライオンズ陣9ヤードまでドライブ。最後はJ.アンダーソンが左から走り込んでTD。ようやく7点を返したのであった。

やっとファルコンズ側の客席が沸いたところで、シルバードームはハーフタイムに入った。

ハーフタイムもめぐみはおじさんたちと飲み続けた。言葉は通じないが、神林めぐみほどの酒豪にとって、アルコールのたぐいはどんな言語よりも有効なコミュニケーション手段である。ふと気付くと、とっくに後半戦が始まっていた。

ライオンズ :自陣35ヤードまで行ってパント。
ファルコンズ:一度は敵陣に入るが、ミスで後退。自陣37ヤードでパント。
ライオンズ :自陣27ヤードでパント。

「あれ。おじさん、ディフェンス調子いいよ。Defense good jobだよ」

「Oh!」

でかい頬に埋もれそうな細い目をフィールドに向けたおじさんは、「Oh!」のあとにさらに言葉を続けていたのだが、ろれつが回らなくなりつつある英語を酔いの回りつつある耳では聞き取れない(めぐみのヒアリング能力では)。しかしめぐみにも、ファルコンズ応援団全体のボルテージが上がりつつあるのがわかった。ファルコンズのオフェンスが前進を続けているのだ。

ついに相手のラフプレーが反則をとられて敵陣ゴール前5ヤードまで前進。次のプレーでJ.アンダーソンがまたも左に駆け込んでTD。14−28だ。

「やるじゃない」

気をよくしためぐみはさらにビールを追加するのであった。

次のライオンズの攻撃は、ファルコンズのD.オーエンスがQBをサックして自陣22ヤードでまたもパント。ファルコンズディフェンスは前半とはまるで別のチームのようだ。

アメフトの作戦はかなり戦略的である。スタンドの上段の方にいるスタッフは敵の攻撃や守備のパターンを観察・分析し、随時ベンチに報告している。さらに前半の敵味方の動きを総括してハーフタイムに作戦を練り直すので、前半と後半では同じチームでも全然別のチームのような動きをすることは、よくある。

それにしてもファルコンズディフェンスの後半戦の動きは格別であった。

続くファルコンズの攻撃は怒濤の寄りで一気にTD。あっと言う間に21−28と迫って第3Qを終了した。ファルコンズ応援団はもはや大騒ぎである。これが甲子園球場外野席なら、フーセンが飛んで六甲おろしが聞こえてくるところだ。

第4Q、自陣20ヤードからのライオンズの攻撃は、ランとパスで自陣35ヤードまで前進。しかし自陣35ヤードからの1stダウンで、右から走り抜けようとしたサンダースがS.ドロネットにタックルされて落球。両方の応援団が総立ちになる中、審判の右腕はライオンズのエンドゾーンを指して突き出された。ファルコンズのD.ブッシュがボールを押さえたのだ。ライオンズ陣内39ヤードで攻守交代だ。

失望の怒声に満ちるライオンズ側スタンドと対照的に、俄然もりあがるファルコンズ応援団。何が起こったかよくわかっていないめぐみではあったが、隣のおじさんに金髪の腕毛びっしりの太い腕で抱きすくめられて、ようやく流れがファルコンズにきていることがわかった。開幕以来の連敗が今日で止まるのか。スタンドが沸いているうちにファルコンズは早くも1stダウンを更新して敵陣20ヤードに迫った。スタンドからは「We want a Touchdown!」の大合唱。

今日3本のTDを決めているアンダーソンが中央を突いて3ヤードのゲイン。2ndダウンの、エバートからT.ブラウンへのパスは失敗。もう一度17ヤードからの攻撃。エバートはエンドゾーンに駆け込むR.プレストンめがけてパスを投げた。

またも場内は総立ち。同点を確信して両手を上げんとするファルコンズ側。悲鳴を上げるライオンズ側。

ボールをキャッチしたのはしかし、ライオンズのCB(コーナーバック)マクネイルだった。

「え?何?何が起きたの?」

周りの席から失望のため息が上がるのがなぜかわかっていないめぐみは、頭上に上げかけた両腕で頭を抱えてしまった隣のおじさんの顔を不思議そうにのぞき込んだ。

「Interception...」

ぼそり、とおじさんがつぶやいた。

「ん?」

まだ状況を理解できていないめぐみの眼下のフィールドでは、タッチバックでライオンズ陣20ヤードライン上でライオンズの攻撃が始まろうとしていた。

このドライブでもファルコンズのディフェンスががんばり、ライオンズは20ヤードから後退して自陣6ヤードでのパントとなった。が、次のファルコンズの攻撃も決定力を欠き、同点には至らずフィールドゴールの3点止まりで24−28。この時点では試合時間は約9分残っていたため、次の攻撃で逆転できると踏んでの作戦だったのだろう。しかしライオンズは徹底して時間をつぶしながら、じりじりと攻撃を展開。ついにファルコンズディフェンスも力つきたか、このドライブを止めることは出来なかった。

そのまま試合終了。ファイナルスコアはファルコンズ24−28ライオンズ。終わって見れば、ファルコンズの開幕5連敗という事実だけが残った。

「でもさ、いい試合だったんじゃないの」

初めてフットボールの試合をナマで見ためぐみは、となりのおじさんと肩をたたき合っていた。

命がけのフルパワーでぶつかり合う男たち。手に汗握る展開。阪神タイガースファンが59,000人集まったかのようなスタンドでは、怒号とヤジさえ選手たちへの愛情がこもっていた、ような気がする。

「悪くない、かな」

ほんの少しではあるが、めぐみには正木たちがNFLに熱中する理由がわかったような気がした。あくまでも、ほんの少しだが。

ファルコンズも5連敗とはいえ、今日のディフェンスなら初白星も遠くはない、とおじさんが言った。チームの長い歴史の中では、こんなシーズンもあるさ、と。

いつの間にか、今夜はおじさんの家に泊めてもらうことになっていた(何と言っているかわからいので適当に頷いている間にそうなった)ので、予約していたユースホステルをキャンセルすることにした。

一方日本では正木が、ブロンコスがホームゲームでチャージャースを下して5勝目を上げ、驚喜していた。翌日はチーフスがマンデーナイトゲームでスティーラーズと対戦。昨年度AFCを制したとはいえ、主力選手のケガに泣くスティーラーズが相手とあって、水上は僅差でチーフスの勝利と読んでいた。が、まさかの敗戦で2連敗。6週目を終わってAFC西地区の成績は、

1位 ブロンコス 5勝1敗 (地区内2勝0敗)
2位 チャージャース 4勝2敗 (地区内3勝1敗)
チーフス 4勝2敗 (地区内3勝1敗)
4位 レイダース 2勝4敗 (地区内0勝2敗)
5位 シーホークス 2勝4敗 (地区内0勝3敗)

ブロンコス単独一位となった。来週はこの地区はレイダース以外試合なし。その後ブロンコスはチーフス、レイダーズとの連戦もあるため、今週リードできたのは大きい。

ファルコンズは来週、ホームゲームでオイラーズと対戦。勝ち星を挙げるには手頃な相手かもしれない。

2連勝で波に乗るジャイアンツは、ホームでイーグルスと同地区内対決。カウボーイズ不調のおかげで、勝てばいつのまにかの地区2位に上がる可能性もある。

NFLは早くも中盤戦。プレイオフを目指してのダッシュのかけどころである。

次週(第7週)

ジャイアンツ
vsイーグルス(ジャイアンツのホームゲーム)
ファルコンズ
vsオイラーズ(ファルコンズのホームゲーム)
ブロンコス、チーフス
オープンデイト(試合なし)

−To be continued.−


注記

パント

アメフトのオフェンスは、4回の攻撃(1stダウン〜4thダウン)で10ヤード以上前進すると、再び1stダウンから4回の攻撃権を与えられる。これを繰り返して、エンドゾーンにボールを持ち込めばTDとなる。10ヤード進めなかった場合はその地点で攻守交代となるので、3rdダウンまでに10ヤード進めなかった場合は、フィールドゴールを狙えない距離が残っていると、4thダウンでパントキックを蹴り、攻撃権を失う代わりにボールを敵陣深くに蹴り込む事が多い(試合終了間際に負けているときなどは、4thダウンでもダウン更新を狙う。リスクが大きいので4thダウンギャンブルと呼ばれる)。

時計を止めながら・・・

アメフトは時間との戦いでもある。1試合1時間であるが、ボールがサイドラインから出た場合(アウトオブバウンズ)、パス失敗の場合、反則があった場合などに時計が止められる。「ここでどうしても得点したいが時間がない」というときは、タイムアウトをとる、すぐにアウトオブバウンズに出られるようにサイドライン際のレシーバーにパスを出す、わざとパスを失敗するなどの手を使う。

逆にリードしていて残り時間が少なくなってきたら、パスではなくラン主体で時間をつぶす作戦となる。

QBサック

ボールがセットされた位置(スクリメージライン)より後ろで、パスを狙うQBがディフェンスに捕まること。LB(ラインバッカー=守備2列目)達にとっては勲章ものである。

タッチバック

通常、攻守の交代は、前のプレーでボールが止まった地点からとなる。しかし、キックオフやパントのボールがエンドゾーンで停止した場合、あるいは守備側が自陣のエンドゾーンでボールを確保した場合は、次のプレーは20ヤードライン上からとなる。

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