熱闘!ブロンコス1996

第7回:第5週


奇跡というものは本当にあるのだろうか。あるのかもしれない。他の人にはどうでもいいことでも、その人にとっては奇跡と思うこともあるだろう。

NFL第5週、1996年9月30日という日。それは西村豊という男にとっては奇跡以外の何物でもなかった。

今週のジャイアンツの相手は、開幕4連勝中のバイキングスだった。一方、ジャイアンツは開幕3連敗で先週やっとジェッツに勝って1勝目を上げたばかり。1試合平均22.5得点のバイキングスに対し、ジャイアンツの平均得点は11点にも届いていない。平均失点はバイキングス16、ジャイアンツ24.3と、ここでも差はタッチダウン1回分以上も開いている。

はっきり言って雲泥である。

が。

西村のパソコンに表示された、インターネットのジャイアンツのページにはデカデカと”偉大な勝利(A Giant victory)”と書かれていた。ドン底のジャイアンツが”ストップ・ザ・バイキングス”を果たしたのだ。

試合は、脆弱ディフェンスがバイキングス・オフェンスの猛攻をタッチダウン0に押さえ、バイキングスの得点はスペシャルチームのパントリターン一本とフィールドゴール一本だけ。その間にジャイアンツは、リバースで決めたタッチダウン1本(2点コンバージョンは失敗)と、B.ダルイーソのフィールドゴール3本全部の成功。

ファイナルスコアはジャイアンツ15−10バイキングス。またも守備でつかんだ勝利だ。しかも先週の相手は、ジャイアンツ以上に今シーズンボロボロのジェッツだったが、今週は絶好調のバイキングスを止めたのである。

攻撃陣は相変わらずの低調だが、守備は確実に持ち直しつつある。3連敗中の平均失点27が、この2連勝中は平均8点しか奪われていないのだ。しかも相手オフェンスに奪われたタッチダウンは2試合ともゼロ。まるで別チームのディフェンスだ。

「やりゃあ、出来るんじゃんかよぉ!」

本気で西村の目はうるんでいた。乗ってきたところで、来週がオープンデイトで試合がないのが惜しい。

それにしても、一体ジャイアンツディフェンスに何があったのか。しばしの心地よい放心状態の後、西村は早速、試合の詳細を呼び出し始めた。


一方、正木も例によって、昼休みに会社のパソコンをインターネットに接続していた。ブロンコスの今週の相手はベンガルズ。

(アウェイだが楽勝の相手。)

昨シーズンなら、あるいは今年でも開幕前なら、どんな格下の相手でも「取りこぼすんじゃないか」という不安が常にあった。しかし4週まで見て、1敗はしているものチーム状態はきわめて安定しているように思える。

果たして結果は。

Team1Q2Q3Q4QTotal
Cincinati370010
Denver707014

5週目にして、ブロンコス4勝目である。ちなみに去年は5週目を終わって負け越していたのだから、やはり今年は調子いいらしい。

がしかし、正木の表情は若干ながら曇った。

「正木さぁん、ブロンコスどうすかぁ」

弁当を買いに行っていた藤代が、正木の肩越しにディスプレィをのぞきこんだ。

「勝ったには勝ったんだがな」

「じゃあ、チーフスが負ければ同率で並ぶんすね」

「アウェイでチャージャーズとやってるはずだ」

気のない返事を返しながら、正木は試合のダイジェストを解読にかかっていた。勝つには勝ったが、ベンガルズ相手に14点しか取れないというのが気になる。

「ベンガルズのディフェンスが調子よかったんじゃないすか?」

「んー、でもブロンコスは守って勝つよりは失点以上の得点で勝つパターンだったよな?それが、先週から得点ががたっと落ちている」

得点は第1週31、第2週30、第3週27と来ていたのが、先週今週とも14点しか取れていない。

「オフェンスにけが人が出たとか」

「いや、個人成績はいいんだ」

QBのJ.エルウェイはパスで335ヤード進めている。T.デイビスはチーム記録に並ぶ、4試合連続のラッシュ100ヤード突破をマークした。にもかかわらず、14点しか取れていない!?

「謎ですねぇ」

「なんだろうな」

「で、チーフスはどうなったんすか」


第4週終了時点で全勝だったのは、バイキングス、コルツ、チーフス、パンサーズの4チームだった。これでバイキングスが消え、パンサーズは”エキスパンションボウル”でジャガーズに破れている。コルツはオープンデートで試合なし。残る”UNBEATEN(負けなし)”のチーフスは・・・。

「う・・・・・・そ・・・・・・」

夜、BSスポーツニュースを見た水上は、あまりの衝撃に突発性言語障害状態となった。

「チャ−−−−−−ジャ−−−−−−ズにぃぃぃぃぃぃぃ」

アゴが伸びきって、大口開けた馬鹿ヅラになっている。

「負ぁけぇたぁだぁ?」

開幕以来の4連勝、さらには一昨年の終盤からの同地区内対決12連勝が止められてしまった。今期初の20点以上の失点で。

試合の鍵を握ったのは、チャージャーズのキッカー、J.カーニーだった。5回のフィールドゴールを全て成功し、一人で15点を稼いだのだ。

キッカーは、一般的に孤独である。

チームメイトがフォーメーションを組んで練習しているときも、グランドの隅で黙々とフィールドゴールの練習を繰り返す。試合の時も、チームメイトがぶつかり合い、芝と泥にさんざんまみれたあとに出てきてひと蹴りするだけで、ユニフォームを汚すことがないものだから、他の選手から嫌われやすかったりもする。しかも登場するのは勝負の分かれ目となるような場面が多いから、プレッシャーとの戦いも苛烈。決めて当たり前で、負ければ全てキッカーのせいと報道されることも少なくない。

そんな中、カーニーはあまたのフィールドゴールを決めて、チームに勝利をもたらしてきた。カーニーのフィールドゴールだけで勝ったという事も何度かあった。そして今週、またもカーニーの黄金の強脚が、チーフスの連勝を止めたのだ。この結果、AFC西地区のスタンディングスは...

1位 チャージャース 4勝1敗 (地区内3勝0敗)
2位 チーフス 4勝1敗 (地区内3勝1敗)
3位 ブロンコス 4勝1敗 (地区内1勝1敗)
4位 レイダース 1勝4敗 (地区内0勝2敗)
5位 シーホークス 1勝4敗 (地区内0勝3敗)

3チームが同率で並んだが、地区内対戦での勝率に差が出ている。AFC西地区はレイダーズ以外の4チームが第7週がオープンデイトになるため、来週がいわば前半の折り返し地点といえる。

同地区内対決の成績ではチャージャーズが半歩リードしているように見えるが、来週はブロンコス対チャージャーズがブロンコスのホームゲームで行われる。両者にとって大きな意味を持つ試合である。

チーフスはホームで、スティーラーズとマンデーナイトゲームを戦う。スティーラーズは強豪ではあるが(昨年度AFCチャンピオン)、今年もけが人が多く苦労している。これもやってみなければわからない試合だ。

ベアーズに負けたレイダーズ、パッカーズに負けたシーホークスは、少なくとも残りの同地区内対決を全勝で行かなければプレイオフはないだろう。


ファルコンズは強豪49ersとの対戦を17−39で落とし、オープンデイトを挟んで開幕4連敗となった。試合は、あるメディアの次の表現を引用すれば全て語り尽くせるだろう。

"The 49ers crushed Atlanta."

ファルコンズがフィールドゴールで3−0と先制したが、その後49ersが怒濤の33点連続ゲット。QBのB.エバートは今期初の先発だったが、3回のインターセプトを含めて、ゲームの間中、49ersのディフェンスにプレッシャーをかけられ続けた。

フットボールは、「攻撃的ディフェンス」という言葉があるように、オフェンス・ディフェンスを問わず流れをつかんでいる方が「攻撃」と言える。

ただ攻撃を止めるだけがディフェンスではない。敵を叩きのめし、敵からボールを奪い取り、あわよくば得点してしまおうというのがディフェンスなのだ。オフェンスライン(フォーメーションの一列目)に力がないチームでボールを持った選手は、一人で狼の群に襲いかかられるに等しい。ディフェンスが文字通り殺到してくる。

今日の試合の結果をチェックし終えた正木は、今週も負けたファルコンズを応援させられているめぐみが、近頃妙におとなしいのが気になった。あの負けず嫌いが。黙っているとは思えないのだが。

と思った途端、水上から電話が入った。

「どうした」

「今、めぐみから連絡があったんだけど、次の試合はデトロイトで観戦するって」

「何ぃ!アメリカに行くってか?」

ついに堪忍袋の緒が音を立ててちぎれ飛んだか。

「その次の週にアトランタで見て帰って来るってさ」

旅行代理店に行ったとは聞いたが、そこまでやるか?しかもデトロイトからアトランタだと?。丸一週間、会社休む気か?

「信じられねぇ。なんて行動力だ」

「これで負けたら、えらいことだと思わない?」

言って水上は電話を切った。正木は受話器を握ったまま、背筋を悪寒が全力疾走していくのを感じていた。

次週(第6週)

チーフス
vsスティーラーズ(チーフスのホームゲーム)
ブロンコス
vsチャージャース(ブロンコスのホームゲーム)
ファルコンズ
vsライオンズ(ライオンズのホームゲーム)
ジャイアンツ
オープンデート(試合なし)

−To be continued.−


注記

2点コンバージョン

TD(タッチダウン、6点)の後のエキストラポイントは、通常は無難にフィールドゴールで1点加算を狙うので、1回のTDは普通7点入る。が、試合が競っている場合などは、強引にTD(2点加算)を狙うことを言う。成功すれば8点、失敗すれば6点止まりというリスクが伴う。

スペシャルチーム

オフェンス、ディフェンスと別に用意される第3の部隊。キックオフやパントを行う攻撃側の選手、またこれに対処する守備側の選手のこと。1ヤードでも敵陣深く蹴り込む、あるいは1ヤードでも前にリターンすることは得失点に直結する。

フィールドの左右から全力で両軍が突進するため、負傷する率が高い。このためベテランや高給取りを下げて新人を投入するケースが多く、注目すると未来の大物がいるかも?

エキスパンションボウル

NFLは一昨年まで28チームだったが、去年リーグをエキスパンション(拡張)して30チームになった。エキスパンションチームは他チームの二線級を寄せ集めた急造チームとしてスタートするため、勝ち越すまででも数年かかるのが普通。

しかしパンサーズは結成1年目の去年すでに7勝9敗の好成績で、しかも前年チャンピオンチームを破った初の新造チームとして、「史上最強のエキスパンションチーム」と呼ばれた。

今週の相手だったジャガーズも去年のエキスパンションチームである。「ボウル」はこの場合、単に試合の意味(一般的には、特定の球技場で行われる特別試合)。

マンデーナイト

ほとんどの試合は日曜日に行われるが、その週の目玉となる好カードを1試合だけ、月曜日にナイターで行う。日曜の試合は大概は地元でしかTV中継しないが、マンデーナイトは全米に発信される。

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