今年のNFLは、どうなるかまるでわからない。第4週も荒れに荒れた。
強豪のダラス・カウボーイズは、バッファロー・ビルズに破れて1勝3敗。新興カロライナ・パンサーズは、やはり強豪のサンフランシスコ・49ersを23−7で下して3戦全勝。マイアミ・ドルフィンズはインディアナポリス・コルツに敗退し、おまけにQBダン・マリーノはゲーム中に足を骨折して戦線離脱。
全勝対決のグリーンベイ・パッカーズとミネソタ・バイキングスは、バイキングスに凱歌が上がった。さて、ニューヨーク・ジェッツとニューヨーク・ジャイアンツの、全敗同士の「バトル・オブ・ニューヨーク」は...
「うおーーーーーっ!」
1996年9月23日、西村のアパートのドアを例によってノックもせずに開けた水上の耳に飛び込んだのは、西村の歓喜の雄叫びだった。
「もしかして、ジャイアンツ勝ったの?」
「おお、やっと1勝だよ。長かったなぁここまで」
パソコンのディスプレイには、ジェッツのN.オドネルのパスをインターセプトしたJ.アームステッドの写真とともに、The Gaiants victory over the Jetsの文字が表示されていた。スコアは13−6、守備で掴み取った今期初白星だった。
チャイムの音に西村が「開いてるよ」と答え、正木が入ってきた。西村の顔を一目見るなり、
「お、ジャイアンツに初日が出たか」
「大相撲じゃねぇっての」
「しかし、1勝しただけで泣くなよ、阪神ファンかお前」
「なに?野球の話する?」
日本野球界では、連敗の広島カープに代わって、ついに読売ジャイアンツがセリーグ首位に立っているのだ。男・西村豊、至福の時であった。
「そういえば正木、千葉ロッテは?」
「定位置の5位。ダイエーのおかげで最下位はまぬがれそうだよ。去年が夢だったのさ」
正木が遠くを見るような目で言った。ロッテが千葉に移転する前年にファンになったが、球場で応援して勝ったことがない。バレンタイン監督のもと躍進した去年が一夜の夢のようだった。
「まぁ、今年は個人タイトルを取れそうなのもいるし」
「また小宮山が最多敗戦投手になるのか」
「ぼけ」
「うをーい、野球の話してるんならパソコン貸してよ」
野球に全く興味のない水上が、西村と正木に割ってはいる。
「なんで野球なの正木?。ブロンコスが負けたと思って、結果見たくないんでしょ」
「ほう、自信たっぷりだな。ポンちゃん、ブロンコスatチーフスを呼び出してくれ」
「ちょい待ち、ジャイアンツの結果をプリント中なんだ」
「後にしてくれよ、お前のプリンタ遅いんだからよ」
「しょうがねーなー」
すでにプリントアウトした分だけ持って、西村はパソコンから離れた。代わって正木がパソコンの前にあぐらをかき、横から水上がのぞき込む。
正木のマウスの動きで画面が切り替わる。NFLのホームページからBroncosを選択。現れたページには堂々と
".., first defeat of the season..."
"... dropping a 17-14..."
と表示された。
乏しい英語力で解読しようと、一瞬の間。
「おーっ!」
「ぐわーっ!」
同時に声を上げたが、「おーっ!」とともに拳を挙げたのが水上で、「ぐわーっ!」とともに頭を抱えたのが正木だった。水上の読み通り、ロースコアゲームを制してのチーフス4勝目だ。
うずくまってしまった正木に代わって、水上が直訳しながら画面を拾い読みする。
「ジョン・エルウェイは・・・えーと、得意の・・・第4Qに・・・逆点のドライブをマーチして・・・インターセプトされて・・・4ヤードで・・・えーと残り3分で、ブロンコスの望みは絶たれた、と」
「日本語になってねーぞ」
まるで漢字だらけの文章でひらがなだけ読んでいるような水上に、プリントアウトを必死こいて読んでいた西村が茶々を入れた。正木はまだ立ち直れていない。
「チーフスの方はなんて書いてるかな」
水上はマウスを動かし、NFLホームページまで戻ってChifsを選択した。
「チーフスは・・・なんだこの単語・・・『負けなし記録』って連勝ってことかな?・・・AFC西の単独首位になった。マーカス・アレンがタッチダウンで128個目が、J.ライスについで2位、NFL史上2位だ、ランで106個目がJ.ブラウンとタイ2位だと」
無理矢理続けて読んだが、やっぱり変な文法のままだ。ようやく正木が顔を上げたが、水上が次々と画面に表示するデータを見ると、
「FGをこの短い距離で2回も失敗してんのかよ」
と言って、今度は大の字に伸びてしまった。FG(フィールドゴール)は3点入るから、失敗の一本が決まっていれば同点、両方成功していれば勝っていたのだ。
「”ミラクル・エルウェイ”の通り名も返上かな」
今まで数々の奇跡的逆転劇を演じてきたエルウェイの神通力もこれまでか?
「ばかやろう、アウェイでこの点差ならホームでは楽勝よ!」
正木が天井を仰いだまま強がった。チーフス対ブロンコスをデンバーで戦うのは10月末。ブロンコスにとっては、ホームゲームがシーズン後半になるほど、マイルハイスタジアムでは寒さに不慣れなビジターが不利になる。もっとも、チーフスの本拠地カンサスシティも、けっして環境が快適ではないだろうが。
ともかく、全勝対決がチーフスの勝ちとなった結果、AFC西地区の第4週終了時点の順位はこの通りだ。
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1位 |
チーフス |
4勝0敗 |
(地区内3勝0敗) |
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2位 |
チャージャース |
3勝1敗 |
(地区内2勝0敗) |
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3位 |
ブロンコス |
3勝1敗 |
(地区内1勝1敗) |
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4位 |
レイダース |
1勝3敗 |
(地区内0勝2敗) |
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5位 |
シーホークス |
1勝3敗 |
(地区内0勝3敗) |
チャージャースがレイダースに勝ったため、勝ち星ではチャージャースとブロンコスは同率2位だが、同地区内の対戦成績で勝るチャージャースが一歩リードの形だ。レイダースとシーホークスの順位も同様。
その他の結果は、西村の推すジャイアンツが1勝3敗。
めぐみの担当のファルコンズはイーグルスと戦ったが、今週も負けて0勝3敗。ただし0勝4敗のチームがいるおかげで、NFC西地区の順位では4位(気休めだが)である。
「そういえば、めぐみは今日来ないのか?」
「なんか、旅行代理店に行くとかいってたよ」
「また海外か?この前オリンピック見に行ってきたばかりじゃないか。よく休み取れるな」
皮肉を言いながらも、どうやらめぐみが来ないらしいと知って3人とも一様に安堵のため息をもらした。
来週のブロンコスはベンガルスとの対戦、ここは軽く勝って今週の憂さを晴らし、第6週のチャージャース戦につなげたい。チーフスはチャージャース戦。ここで勝てば、今週時点で2位のチャージャースに星ふたつの差となり、さらに8試合しかない地区内対戦で4勝目を挙げることになるから、地区首位を固めることになる。
ジャイアンツの相手は、この前ファルコンズを粉砕した開幕4連勝中のバイキングス、苦戦必至か。なにしろジャイアンツのオフェンスは、ここまで4試合で43点しか取れていない。守備ががんばらなければ勝ちようがないのだ。
そして問題のファルコンズは、アウェイで強豪49ersとの対戦だ。去年はホームでは辛勝したものの、アウェイではぼろぼろにされている。神林めぐみが溜飲を下げる日は来るのか。
次週(第5週)
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チーフス |
対 |
チャージャース |
(チャージャースのホームゲーム) |
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ブロンコス |
対 |
ベンガルス |
(ベンガルスのホームゲーム) |
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ジャイアンツ |
対 |
バイキングス |
(ジャイアンツのホームゲーム) |
|
ファルコンズ |
対 |
49ers |
(49ersのホームゲーム) |
デンバーブロンコスの本拠地。標高1マイル(1600メートル)の高さにあることから名付けられた。シーズン後半には吹雪くこともある寒さで、暖かい地方のチームは難儀する。
一方で空気が薄いのかボールが飛びやすいため、長距離のFGが決まりやすいというデータもありビジターにも有利がある。同じコロラド州のロッキーズの本拠地も、同じ理由でホームランが出やすい。ここで野茂がノーヒットノーランをやったのは、そういう意味でも凄いのだ!