熱闘!ブロンコス1996

第5回:第3週


1996年9月16日(月)。3連休の最後の日、水上美輝は昼前から西村のアパートのドアをたたいた。

「お、ミキちゃん来たね」

「ヨシテルだってばよ。どうだった、NFL第3週は」

 西村のパソコンは、当然のようにインターネットにつながっていた。

「聞かないでくれないかな」

「さてはジャイアンツ負けたな?」

ニューヨーク・ジャイアンツの3連敗に、はなはだ覇気のない声の西村であった。メジャーリーグのサンフランシスコ・ジャイアンツも、ドジャースとパドリスの地区優勝争いから遠く離れて最下位をうろうろしてるし、楽しみは読売ジャイアンツだけとなりつつある。

ふてくされている西村を後目に、水上は勝手にマウスを動かし始めた。

Giants Stadium, East Rutherford, NJ
Washington 31
New York Gaiants 10

ジャイアンツは同じNFC東地区のレッドスキンズに負けていた。

Kingdome, Seattle, WA, USA
Kansas City 35
Seattle 17

「お、勝ってるねー。ポンちゃん、ゲームの詳細ってどうやるんだっけ」

「gamebookってとこクリックしてみな」

3歳も年下の学生にポンちゃん呼ばわりされても、西村豊は怒る気もないらしい。くわえ煙草で冷蔵庫からコークのペットボトルを引っぱり出している。

「gamebookね。お、出た出た。ねぇ、これ訳してよ」

「できるかっ!そうでなくても、こっちが負けたってのに、何が悲しゅうて勝ったチームの記事訳さなきゃならないんだ」

日本でもNFL情報をUPしているところは多くあるが、西村も正木も、ろくに英語もできないくせに「やっぱり本場の情報でないと」とかいって米国本土のNFLのホームページに接続しているのだ。ちなみに購読新聞は、正木がジャパンタイムスで水上がデイリーヨミウリだった。二人とも周囲から「ニセ外人」とよく呼ばれている。

「ケチ!」

「うるせー。お前、現役の学生だろうが」

「学生の本分は遊びなの。ポンちゃんだって勉強してなかったっしょ?」

言いながら、目は必死で画面を睨んでいた。

今週のチーフスは、RBのマーカス『ざまぁみろアル・デイビス』アレンがランで2タッチダウンを決めた。通算127個目のタッチダウンで、NFL記録でJブラウンを抜き、49ersのJライスの157個に次いで歴代2位のタッチダウン数になった。

他にスティーブ『俺の時代だ』ボウノが3本のタッチダウンパスで、同じAFC西地区のシーホークスを撃沈。ブロンコスもバッカニアーズを破ったので、3週目を終わってのAFC西地区・星取り表はこうなる。

1位 チーフス 3勝0敗 (地区内2勝0敗)
2位 ブロンコス 3勝0敗 (地区内1勝0敗)
3位 チャージャース 2勝1敗 (地区内1勝0敗)
4位 レイダース 1勝2敗 (地区内0勝1敗)
5位 シーホークス 0勝3敗 (地区内0勝3敗)

そして来週、第4週は、チーフス対ブロンコスの直接対決であった。舞台はチーフスの本拠地、アローヘッドスタジアム。去年のこのカード、マイルハイスタジアムでもアローヘッドスタジアムでもチーフスが勝ち、チーフスが地区優勝した要因の大きな一つとなった。

がしかし、予断は許さない。戦国時代といわれるAFC西地区だが、鍵を握るのは結局チーフス、ブロンコス、レイダースの直接対決なのだ。この三者が横綱で、チャージャースとシーホークスが横綱昇進目前の大関というところだ。中には平幕クラスばかり、あるいは本当に幕内かよというような地区もあるが。

ともあれ、来週チーフスが本拠地でブロンコスを破れば、地区優勝へ大きく前進することになる。鍵となるのは、チーフスの攻撃に対して、ブロンコスの守備が去年と比べてどこまで改善されたかだ。

「で、今年も勝てそうなのか」

西村の問いに、水上は自信たっぷりに頷いた。

「守備はシステムだからね、一朝一夕に立て直せるもんじゃないよ」

攻撃は、一人あるいは数人のヒーローがいれば組み立てられる。豪腕精確なパスを投げるQB、競り合いに負けないWR(ワイドレシーバー)、守備の隙間を見つけて走り抜けるRB。そういう選手が一人いるだけで、オフェンスコーディネーターは仕事がしやすくなるのだ。しかし、守備はなかなかそうはいかない。野球の守備であれば、ピッチャーが内野ゴロを打たせるなどということもできようが、アメフトは11人全員で連携してフィールドを守らねばならない。しかもラグビーと違っていつロングパスが来るかもしれないし、サッカーと違ってボールを抱えて体当たりのようにつっこんでくるかもしれない。

しかもルール改定によって、ますます守備は難しくなっているのである。

一度崩れた守備を立て直すのは容易ではないのだ。

「ブロンコスの守備がオレンジクラッシュなんて言われて恐れられたのは、昔のこと。エルウェイを活かすために攻撃ばかり補強したツケが、ここ数年の低迷ということでしょ」

おっと水上、これは事実上の勝利宣言か。

「エルウェイを調子づかせて、点の取り合いになるとわからないな。でもロースコアゲームなら、うちの勝ちだ」

いずれにせよ、AFC西地区の地区優勝争いは、来週のチーフス・ブロンコス戦がシーズン序盤のヤマとなるであろう。

祝日で会社のパソコンを使えなかった正木は、17日(火)のジャパンタイムス朝刊でやっと第3週の結果を入手した。英字新聞というものは当然ながら横書きのため、ラッシュ時の車中ではスポーツ紙などより広げにくいのだが、周囲の迷惑も顧みずに、斜めに吊革につかまりながらDenver Broncosの文字を探した。バッカニアーズとの対戦結果はほんの数行しか触れられていなかったが、予想通りの快勝。

来週の対チーフス戦に燃える正木であった。

次週(第4週)

チーフス
vsブロンコス(チーフスのホームゲーム)
ジャイアンツ
vsジェッツ(ジェッツのホームゲーム)
ファルコンズ
vsイーグルス(ファルコンズのホームゲーム)

−To be continued.−


注記

マーカス・アレン

レイダースの名RBであったが、オーナーのアル・デイビス氏と衝突しチーフスに移籍。アル・デイビス氏はヘッドコーチでも選手でも気に入らないとすぐ放り出す、わがままオーナーとして有名。

スティーブ・ボウノ

49ers時代は先発QBのジョー・モンタナ、控えのスティーブ・ヤングに続く3番手だった。モンタナと同時にチーフスに移籍したため、移籍後しばらくはやはり控え選手。モンタナ引退後に先発となり、大活躍している。

ルール改定

アメフトの華であるQBを負傷から守り、最高の見せ場であるロングパスを通しやすくするため(?)、QBにタックルする際の反則のとられ方やレシーバーへの接触の制限が厳しくなってきている。

オレンジクラッシュ

ブロンコスの守備陣が強烈に強かった頃、ブルー&オレンジのチームカラーにちなんで守備につけられたあだ名。スティーラーズのディフェンスは70年代の全盛期がチーム名からスチール・カーテンと呼ばれた等、強力ユニットにニックネームがつけられることが多い。

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