熱闘!ブロンコス1996
第4回:第2週
1996年9月9日(月)。フレックスタイム制があるおかげで、普段は9:30amを過ぎなければ出社しない正木であったが、今日ばかりは定刻8:30amにすでに職場の端末に火を入れていた。もちろん、インターネットにアクセスするためだけに早めに出社したのである。
家からアクセスできれば、こんな苦労はしなくていいのだが、正木の家にパソコンはない。妻を説得して購入する計画であったが、その矢先に妻が身ごもったことがわかったのだ。
(当分、大きな買い物はさせてもらえそうにないよな)
独白しつつ、NFLのホームページに移動した。
第2週の日曜日の試合結果を検索する。今週のブロンコスは、アウェイでシーホークス戦だった。
NFLはおそらく他のどのスポーツよりも、自チームのホームグランドで試合することのメリットが大きいスポーツである。たとえば暖かいマイアミやサンフランシスコのチームが、北のシカゴや標高1600mのデンバーの、シーズン終盤になれば吹雪に包まれる寒いスタジアムで試合するとなれば、寒さになれている地元チームが有利となる。
また、攻撃はQBが大声で作戦を選手に伝えるが、地元のファンがスタンドで大騒ぎしてQBの声を聞こえなくさせるなどということもある。たとえばロサンゼルスを本拠地にしていた時のレイダースのスタジアムには、地元ファン用に、足元がコンクリートではなく鉄板でできている観客席が作ってあった。ビジターチームの攻撃の時は地元ファンが一斉に鉄板を踏みならして音で邪魔をするのである。もっとも、あまりファンが騒ぎすぎると地元チームが反則をとられたりすることもあるのだが。
それでなくても、普段応援してくれる地元ファンの前でカッコよく勝ちたいと思うのは、サッカーでも野球でも同じだろう。
敵地シアトルに乗り込んでのシーホークス戦。不安では、あった。
しかもシーホークスはブロンコスと同じAFCの西地区である。同地区内の対戦結果は地区優勝に大きく影響する。
一地区は5チームで構成され、同地区内のチーム同士ではホーム&アウェイで対戦するため、レギュラーシーズン中16試合の内、8試合が同地区内の対戦である。残り8試合は前年度の成績によって対戦相手が決定されるのだが、同地区内の8試合でまず勝ち越さなくては、地区優勝は難しくなる。ワイルドカードでのプレイオフ出場枠争いも、勝率が同じチーム同士なら地区内での勝率が高い方が上位とされるため、プレイオフに出たければ(出たくないチームなどないが)地区内対戦を勝ち越すことが、絶対条件ではないまでもかなり重要なのである。
ちなみに去年のブロンコスは、ホームもアウェイもシーホークスに破れており、地区内対決の成績は3勝5敗であった。結果として、プレイオフの常連だったのは過去のこと、になってしまったのである。
今週の試合は、今年ブロンコスがプレイオフに出るために、NFLの決勝戦であるスーパーボウルに出るために、チーム史上初のスーパーボウル・ウイナーになるために、まずは絶対に落とせない第一関門であった。
さて、その試合の結果は・・・
ブロンコスがフィールドゴールで3点先制。シーホークスがフィールドゴール2連発で3−6と逆転したが、ブロンコスがエルウェイ→クレバーのタッチダウンパスで10−6と再逆転。さらに前半終了間際にフィールドゴールを追加して13−6。
後半はシーホークスのギャロウェイが、パントリターンで88ヤードを走ってタッチダウン、13−13の同点。追いつかれたブロンコスはエルウェイ→ミラーのタッチダウンパスとフィールドゴールで23−13と突き放した。シーホークスはフリーズ→フォーリアのタッチダウンパスで23−20と追撃するが、残り2分でエルウェイが自分でエンドゾーンに飛び込んでトドメのタッチダウン。
| Team | 1Q | 2Q | 3Q | 4Q | Total |
|---|---|---|---|---|---|
| Denver | 3 | 10 | 7 | 10 | 30 |
| Seattle | 3 | 3 | 7 | 7 | 20 |
ブロンコス、復活の狼煙を上げる地区内1勝目であった。来週はホームスタジアムにバッカニアーズ(今季0勝2敗)を迎えての一戦。
(一気のうっちゃりで開幕3連勝、だよな)
去年、下位相手に取りこぼしまくった悪夢から抜け切れない正木であるが、地区優勝最右翼のチーフスと対戦する4週目まで無敗で行きたいブロンコスであった。
ちなみに2週目を終わってのAFC西地区・星取り表はこうなる。
| 1位 | チーフス | 2勝0敗 | (地区内1勝0敗) |
| ブロンコス | 2勝0敗 | (地区内1勝0敗) | |
| チャージャース | 2勝0敗 | (地区内1勝0敗) | |
| 4位 | レイダース | 0勝2敗 | (地区内0勝1敗) |
| 5位 | シーホークス | 0勝2敗 | (地区内0勝2敗) |
レイダースが落ちたとはいえ、今年も激戦の様相を呈しつつあった。
同日21:10、西村は二つのことで頭を抱えていた。彼の前では、NHKのBSスポーツニュースがNFLの結果をざっと流した後、メジャーリーグのニュースに移っていた。
問題の1はジャイアンツの試合結果だった。同地区内のカウボーイズに0−27でシャットアウト負けしたのであった。
カウボーイズの最初の攻撃は完璧に止めていた。自陣1ヤードまで攻め込まれたものの、カウボーイズのエースRB(ランニングバック)であるスミスの突進をがっちりとストップさせ、囮の裏からのウォーカーの突っ込みもくい止めて、得点を許さなかった。
しかし完璧と思わせたのは、この最初の攻撃の時だけだった。むしろ、終わってみればこの立ち上がりの守備は不思議ですらあった。前半だけでカウボーイズのQBエイクマンにタッチダウンパスを3本決められ、後半さらにフィールドゴールを2本追加され、何かいいようにあしらわれた感さえある。
完封ともなると、残念とか悔しいとかを通り越して呆れてしまう。読売巨人のファンである西村としては、広島カープ相手に優勝をかけて白熱した総力戦を展開している東京のジャイアンツと、本当にプロかと言いたくなるようなズタボロ状態のニューヨークのジャイアンツの差に言葉もなかった。
(いっそのこと、チーム名を変えてくれればいいのに)。
西村にとって、「ジャイアンツ」が負けることは許されないのだ。
問題の2は、ファルコンズがバイキングスに17−23で敗退したことだ。試合の詳細はみていないが、タッチダウン1本の差だから、結構いい試合だったのかもしれない。しかし仮にいい試合をしていたとしても、開幕二連敗の事実は変わらない。
めぐみに「ファルコンズは勝つ」と言ってしまったことをひたすら後悔している。今にもめぐみから電話が入るのではないかとビクビクしているのだが、電話がかかってきたときに留守にしていたら後が怖い。
別に、めぐみがヒステリーというわけではない。愛嬌があってやさしく、神経が細やかでよく気が利く。しかも容姿はいわゆる美人の部類に入れて恥ずかしくないいい女だ。ただし、怒らせてはいけない。一度怒らせたら最後、核の炎さえ凍り付かせるような冷たい空気が周囲数キロを支配する(水上・談)のである。
突然電話が鳴った。
あぐらで座った姿勢から誇張抜きで20cmほど飛び上がった西村は、6回コールしたところでやっと受話器を取った。恐る恐る耳に当てる。
「西村ぁ」
地獄の底から響いてくるような低音は、めぐみではなく男の声であった。水上だ。
緊張の糸がぶっつり切れ、放心状態に陥った西村だったが、もう一度水上の呼ぶ声が聞こえたところで瞬時に正気に返って受話器に怒鳴り出した。
「てめぇ、俺を殺す気か?こんな時に電話してきやがって!心臓が口から飛び出して成層圏まで飛んでくかと思ったじゃねぇか」
しかし、水上の声のトーンは日本海よりも深く沈んだままだった。
「西村ぁ。めぐみに何を言ったぁ」
「なんだと?めぐみから連絡があったのか?」
「めぐみ、怒ってるなんてものじゃないぜぇ。白髪になったら西村のせいだからなぁ」
電話は切れた。西村は思わず背筋が凍る思いだった。日頃は、4人組の中でも最年少でもあることだし、タメ口のようで敬称はちゃんとつける水上であったが、それがこのしゃべり方。めぐみが水上に何と言ったかはわからないが、本気で水上の精神状態を心配した。駆けつけた方がいいかもしれない。
とりあえず来週は、ファルコンズは試合がない。何とかこの間にチームを立て直してくれないと、ジャイアンツの心配もしていられない。
今はただ、めぐみを巻き込んだことを悔いる西村であった。
次週(第3週)
- ブロンコス
- vsバッカニアーズ(ブロンコスのホームゲーム)
- チーフス
- vsシーホークス(シーホークスのホームゲーム)
- ジャイアンツ
- vsレッドスキンズ(ジャイアンツのホームゲーム)
- ファルコンズ
- オープンデート(試合なし)
注記
オープンデート
レギュラーシーズンは17週間で16試合を戦い、途中1回だけ試合の休みの週がある。この日をオープンデートまたはバイウィークという。
タッチダウン(TD)
6点が入る。さらに「トライ・フォア・ポイント」あるいは「ポイント・アフター・タッチダウン」というボーナス点(エキストラ・ポイント)のチャンスが与えられ、ゴールラインの直前からもう一度攻撃できる。このときにフィールドゴールなら+1、再度タッチダウンなら+2が加算される。
フィールドゴール(FG)
プレースキックで成功すると3点が入る。