熱闘!ブロンコス1996
第2回:開幕前夜その2
1996年9月1日。NFL開幕を翌日に控え、4人はそれぞれに熱く語っていた。
正木恵一の場合。
デンバーブロンコスのファン、というよりQB(クォーターバック)のジョン『わがまま』エルウェイの熱狂的ファン(水上に言わせれば「エルウェイ教の信者」)である彼の、今シーズンにかける意気込みは強い。
何しろ、優勝候補に上げられ続けながらのここ数年の低迷。しかもエルウェイは30代も後半に差し掛かり、いつ引退してもおかしくない年齢である。しかし今年はかなり調子がいいようだ。プレシーズンと呼ばれる、日本の野球で言うオープン戦を3勝1敗。その内の2勝は強豪の49ersとカウボーイズから上げているのである。
加えて今年の対戦相手はかなり楽だ。
NFLは現在30チームあるが、レギュラーシーズンは16試合しかなく、全チームとの総当たり戦ではない。その年の対戦相手は前年の成績をもとに、強いチーム同士・弱いチーム同士で組まれる。ブロンコスは去年の成績がやっと勝率5割というていたらくだったため、今年はあまり強いチームとの対戦がないのだ。
開幕3試合はジェッツ、シーホークス、バッカニアーズに楽勝。その勢いで最初のハードルである4週目のチーフスを敵地で粉砕すれば、その後は破竹の勢い。8連勝で宿命のライバル・レイダースに挑む、というのが正木のシナリオである。
ブロンコスはいつも下位に取りこぼして泣くチームであるのを忘れた、しかもAFC西地区は去年は5チームとも勝率5割以上という激戦区であるのを忘れた、調子のいい予想であった。
水上美輝の場合。
もともとは49ersのファンだったが、49ersからチーフスに移籍したQB、ジョー『神様』モンタナを追いかけてチーフスファンになった。
もともとはパスではなくラッシュ、つまりボールを持った選手が守備をはね飛ばしながら前進するタイプのチームだったが、モンタナが加入してからは49ersタイプの、短いパスを確実につなぐ”ウェストコーストオフェンス”と呼ばれるスタイルに変身した。これが当たってチームは飛躍。
モンタナ引退後も、同じく49ersから移籍してきたQBスティーブ・ボウノがこのオフェンススタイルを引き継いでおり、チーフスはAFC西地区の優勝争いに常に加わっている。
今季はスティーラーズとの対戦もあるが、水上は「16戦全勝」を主張して譲らない。去年の地区優勝と、プレシーズンで強豪カウボーイズを32−6の大差で破ったのが自信の根拠のようだが、日本プロ野球と同じくオープン戦の成績はあてにならないものである。大体が近年、AFC西地区で2年連続地区優勝したチームはないのだ。
西村豊の場合。
日本の読売巨人のファンで、ジャイアンツと名が付くものが負けるのは許せないというだけでニューヨーク・ジャイアンツを応援し始めただけだったりする。というわけで、当然のようにメジャーリーグのサンフランシスコ・ジャイアンツも応援しているのだが、周囲にメジャーリーグの話ができる知り合いがいない(いても野茂しか知らない)ため、寂しいらしい。この4人組にしても、野球の話ができるのは千葉ロッテのファンの正木だけである。
そのNYジャイアンツは、つい数年前にスーパーボウルを制したとは思えないほどの低迷で、去年も4勝12敗と大きく負け越した。とにかく、強豪カウボーイズと同地区で、ホームとアウェイで二度対戦しなければならないのがつらい。だが同じNFC西地区の他チームも大して強くないから、地区優勝できなくてもプレイオフに出るチャンスはあるはずなのだが。
ちなみに、プレイオフに出場できるのは各カンファレンス15チーム中6チームで、東部・中部・西部それぞれで地区優勝した3チームはまず出場権がある。さらに、この3チームを除いた12チームの内もっとも勝率の良い3チームが、ワイルドカードと呼ばれる枠で出場できるわけだ。
前述の通り総当たりではないため、こっちの地区の2位よりあっちの地区の1位が弱いということもあるからで、クジ運でプレイオフに出られたチームもそう簡単にはスーパーボウルまで進めない仕組みになっているのである。
神林めぐみの場合。
むりやりファルコンズのファンということにされたぐらいだから、ファルコンズのことは何も知らない。そもそもアメフトのこと自体知らない。
今年は攻撃の司令塔であるQBのジェフ『渡り鳥』ジョージがチームとの契約更改でもめたため、練習への合流が遅れた。これは少々不安材料では、ある。しかし去年は守備のランキングが30チーム中29位という、ざるのような守備陣でプレイオフに進んだのだから、何をやってくれるかわからないチームという感がある。
ただしめぐみは、負けず嫌いが服を着て歩いているような女である。万が一ファルコンズの成績が振るわないようだと、仕事をほったらかしてアトランタまで乗り込みかねない。日米友好のためにもめぐみにそんなことをさせるわけには行かないと、せめてファルコンズが勝ち越すことを祈る男3人であった。
注記
ジョー・モンタナ
ノートルダム大時代から注目のQBだったが、49ersでも「モンタナ・マジック」といわれる大逆転を次々と演出し、スーパーボウルで3回優勝した。
「あいつは人間じゃない。神とは言いたくないが、神にもっとも近い人間だ」と評されたほどで、現役時代からすでに伝説となった稀代の名選手。
ジョン・エルウェイ
ラスト2分での大逆転は史上最多回数を誇り、「モンタナ・マジック」を越える「ミラクル・エルウェイ」と称される。自慢のライフルアームから繰り出す超ロングパスと、ディフェンスに追いつめられてからのスクランブル・ダッシュが売り。
しかし気分屋で起伏が激しく、ダメな時はとことんダメ。