イスカリオテのユダ

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用語
人名。キリストの十二弟子(使徒)の一人。
邦訳での表記
イスカリオテのユダ(新共同訳など)
英語表記
Judas Iscariot

名前について

ユダの意味は「賛美」の意味。ヤコブの息子の一人ユダ(イスラエル12部族のひとつユダ族の祖)にちなんだ由緒ある名前です。

イスカリオテの意味は「イーシュ・カリオテ」だとすると、イーシュは「男」なので(創世記2章23)、「カリオテ出身の男」の意味だとする説が有力なようです。このカリオテはエレミヤ書48章24に出てくる南部のケリヨトだとされます。あるいはサマリアのスカル出身の男だとか、イッサカル族(イスラエル12部族のひとつ)という説もあります。北部のガリラヤ周辺の出身で訛りの強かったイエスや他の十二弟子とは少し空気が違っていたかもしれません。
「イスカリオテ」には暗殺者という意味もあるので、ゼロテ党(熱心党)と関係があってそう呼ばれたという説もあります。アラム語で「うそつき」「偽善者」を表す言葉から来ている、など多くの説があるようです。

人物像

裏切り者の名を受けて

言うまでもなく、イエスを裏切ったことで、もっとも有名な使徒。クリスチャンの少ない日本でも、キリストの弟子といえばペトロと並んですぐに思い出される名前ではないでしょうか。
その裏切りの動機についてはさまざまな説があります。

1.金目当てとする説。(マタイ26:15)

2.熱心党的な動機。ユダが熱心党だったとすると、イエス・キリストを王とする神政王国の出現に期待していたはず。ベタニアでイエスが頭に油を注がれた時(マルコ14章)に「いよいよ建国の時」と思ったであろう。(頭に油を注ぐのは神によって王とされることの象徴)
しかしイエスが地上での政治的な王国について肯定しないため失望し、内通したのではないか。

3.失楽園のときにサタンが蛇の背後にいたように、ユダにサタンが入ったためではないか(ヨハネ福音書13:27)

それぞれ、聖書に書いてあるとおりなのですが、筆者流にこれらの説を検証すると、まず1番は、少なくとも主目的ではないでしょう。
ユダがイエスを売ることで得た金はたった銀貨30枚。時代が違いますが、仮に銀貨が出エジプト記21章32と同じ貨幣だとすると、これは家畜が他人の奴隷を誤って殺傷した場合に、家畜の所有者が奴隷の所有者に払うべき賠償額です。イエスを王として期待していたユダが、奴隷と同じ値段で売り渡すとは考えにくい。
これがローマのデナリオン銀貨だとすると、1デナリオンは労働者の1日の稼ぎに相当したと言われますので、30デナリオンならけっこうな額になります。が、ユダはあとで後悔して銀貨を神殿に投げ込んでいます。賽銭箱に入れるのはユダヤの貨幣に両替してからにするのが常識でしたから、異邦人支配者ローマの銀貨を投げ込んだとは考えにくいのです。

2番と3番の説の連携というか輻輳というか、つまり、この世での政治的軍事的な王国の主としてのイエスという姿に期待し、そして失望したユダを、サタンが利用したのではないでしょうか。

ただ、よくわからないのがサタンの動機というか行動原理です。
イエスが十字架で死んだのは、罪のために滅ぶしかないすべての人の身代わりになって、罪のない生け贄として捧げられるためです。つまり、祭壇で動物を犠牲としてささげたように、イエスが十字架で殺されることによって、イエスをキリストと信じる人が、アダムが神から離反する以前のヤハウェと人間の関係に復帰する、というのが十字架の目的なのです。
とすると、ヤハウェに敵対するサタンは、人間をヤハウェから離反させておきたいのだから、キリストが十字架で死ぬのは困るはず。むしろ妨害するのが自然です。その証拠に、イエスが、自分は苦しみを受けて殺されそののちに復活することを予言したとき、サタンはペトロを通してイエスの計画を止めようとしているのです(マタイ16:21-23)。

神の計画

前述の通り、キリストは、すべての人の罪を肩代わりするために、犠牲としてささげられなければなりませんでした。これは旧約聖書に何度も預言されていたことです。預言とは神からの啓示ですから、キリストの死を旧約聖書で予告したのは神なのです。

逆に言うと、ユダは、神の人類救済計画(というと陳腐になってしまいますがニュアンスを汲んでください)を手伝っただけとも言えるのではないか?たまたまユダが選ばれただけではないか?
確かにイエス自身も次のように言っています。

「人の子は、聖書に書いてあるとおりに、去って行く。だが、人の子を裏切るその者は不幸だ。生まれなかった方が、その者のためによかった。」(マタイ26:24)

「人の子」とはここでは、イエス・キリストが好んで使った一人称で、聖書とは旧約聖書のことです。
そしてユダは、イエスに「しようとしていることを、今すぐ、しなさい」と言われてから、内通するために出ていったのです。

ということで、ユダに対して同情的な見方もあります。2006年に解読されて話題になった「ユダの福音書」は後の時代に書かれたものですが、ユダだけがイエスから真実を告げられ手伝わされたと書かれているそうです。
でも、ユダは神にあやつられて汚名をかぶったわけではありません。聖書は、

  • ユダは使徒団の会計をごまかしていた盗人であった(マタイ12:6)
  • サタンがユダに入った(ヨハネ福音書13:27)
  • 自分の行くべき所に行くために離れてしまった(使徒1:25)
  • などと記録しています。
    アダムとエバが、自分の意志で、神から離れて蛇(サタン)に従ったように、ユダも自分の意志で、神から離れてサタンに与していったのです。

    裏切ったのは誰

    とにもかくにも、裏切り者としてあまりに有名なユダですが、裏切ったのは実はユダだけではありません。使徒全員が裏切ったのです。

    イエスは、自分が捕らえられ十字架で殺されること、そののちに生き返ることを、繰り返し弟子たちに言っていました。
    これに答えて、ペトロをはじめ使徒たちはみな「たとえ一緒に死ぬことになるとしても、裏切りはしない」と言っていたのですが、イエスが逮捕されたときには全員が蜘蛛の子を散らすように逃げてしまったのです。ペトロに至っては、つかまったイエスの様子を探りに大祭司邸まで近づくのですが、誰かに「お前、イエスの弟子だな」といわれるたびに「そんなやつのことは知らねぇ」と言い逃れ、しまいには呪いの言葉さえ口にする始末。

    みんなが裏切ったのです。
    ただ、ユダが他の弟子たちと決定的に違ったのは、ペトロたちが生き返ったイエスに再会して悔い改めたのに対し、ユダは悔い改めることができず自殺してしまったという点です。
    自殺したことで、裏切りを悔いてはいたとは推察できますが、もし悔いただけでなく悔い改めていれば、他の弟子たちと同様にイエスにに再会して赦しを受けることができたでしょう。

    聖書中の同名異人

    このユダに必ず「イスカリオテの」と言う形容詞がつくのは、十二弟子にもうひとり、タダイと呼ばれたユダがいたので区別するためでしょう。さらに、この二人を含めて聖書にはユダが11人も登場します(日本語訳の場合)。
    前述の通りユダという名前は、イスラエル12部族のひとつユダ族の祖であるユダに由来する由緒ある名前ですし、「神の民」と呼ばれるイスラエルでは意味もとてもいい。それだけに「こいつは他のユダとは違うんだ。例のイスカリオテのあいつだよ」と強調されているのかもしれません。
    ちなみに11人のユダとは次の人びとです。

    この人にちなんだ名前

    綴りはJudasでも、英語ではジューダス、ドイツ語だとユーダス、フランス語ではジュダです。
    ジュード(Jude)、ジューダ(Judah)もあります。創世記に出てくるヤコブの子ユダはJudah、タダイと同一人物と見られるユダはJudas、イエスの兄弟の一人もJudas、新約聖書の一つ「ユダの手紙」の筆者はJudeです。

    “裏切り者のユダ”のイメージが強いので、あまり用いられないようですが、聖書にはユダという人が何人も登場するので、もし、イスカリオテのユダが別の名だったら、ユダという名前はとてもポピュラーになっていたかもしれません。でも、ビートルズの“Hey Jude!”のおかげで、イメージは変わったみたいです。

    ジューダス・プリーストというのはヘビメタバンドでしたっけ。
    日本のポップスのバンドJudy and MaryのJudyは、ユダとは関係なく、ユディト(Judith:創世記26:34に書かれている、エサウの奥さんの一人)から派生した名前でした。

    日本ではユダと言えばやっぱり、南斗紅鶴拳の使い手、妖星ユダ(北斗の拳)でしょう!
    ジュードがユダだと、ジュドーってのはどうなんだろう。Zガンダムのジュドー・アーシタとか。ベルセルクにもジュドーってキャラがいたな。(サンライズのホームページをみても、ジュドーのつづりかたがわかりませんでした。)

    関連語句

    使徒


    メルマガ「聖書を読んでみよう」増刊20号(1999年1月26日配信)に掲載したものを加筆訂正しています。
    「この人にちなんだ人名」は、すのぴ氏のご協力によるものです。

    作成:1999年01月26日
    更新:2007年02月16日

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