NFLの兄弟アスリート

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(本稿は、「スポーツは楽し」を主宰している『マスター』と話しが弾んで書いたものです。文中の時制は2002年秋となっており、NFLはレギュラーシーズン第11週終了時点となっています。データ等はnfl.comを参考にしました。なお、筆者の英語力や記憶力の問題で間違いを含んでいる可能性はあります)

えー、某所でマスターと話してるうちに、マスターに「書いてみませんか」と言われてその気になって書いてみます。

マスターと話していた話題というのは、NFLの兄弟アスリートのこと。
日本のスポーツ界で有名な兄弟アスリートといえば、相撲界なら貴乃花と若乃花の花田兄弟や、鶴嶺山・逆鉾・寺尾の井筒三兄弟といったところ。プロ野球界には、あにやん&おと松の松沼兄弟をはじめ、入来兄弟(智・佑作)、山田兄弟(勉・洋)など。陸上界には宋兄弟という双子までいる。

NFLで有名な兄弟というと、まずスターリング&シャノンのシャープ兄弟。
弟のシャノンは、ドラフト9巡目という低い評価でブロンコスに入団したのだけど、タイトエンド(ラッシュもレシーブもブロックもやるポジション)ではNFLを代表する選手にまでなりました。
ブロンコスのスーパーボウル初制覇と翌年の連覇は、鉄砲肩(ライフルアーム)に物を言わせたQBエルウェイの個人技に頼るチーム体質から、比較的短いパスを確実につないで前進するウエストコーストスタイルに変更できたことが大きかった。で、そのパスを確実にキャッチしたのがシャノンだったというわけだ。連覇の立役者の一人と言って過言じゃあない。
二連覇を勲章にエルウェイが引退し、シャノンも移籍でチームを去って、ブロンコスは低迷。がしかし今季になってシャノンはブロンコスに復帰。あるいは引退を意識して「最後は古巣のユニフォームで」と考えたのかもしれないけど、おかげでブロンコスは大激戦のAFC東地区で同率首位と好調。

一方、兄スターリングのポジションはワイドレシーバー。オールプロにも5回選出されるほどの活躍ぶりで、QBブレット・ファーブのNFLキャリア最初のTDパスをキャッチしたのもスターリングだ。
さあ、この兄弟どっちがすごいのだろう、と注目が高まってきたところで、残念なことにお兄ちゃんは怪我で引退してしまったのです。(現在はESPNという大手テレビ局で、NFLの解説をしています)

貴乃花と若乃花はどっちがすごいかということになると、どちらを応援するかは別にして客観的に見れば、やはり貴乃花ということになるでしょう。
しかしシャープ兄弟の場合、両方ともオフェンスの選手なので直接ぶつかりあうことがない上、ポジションが違うので、どっちがすばらしい選手だったかという評価は、客観的には難しい。これがワイドレシーバーとコーナーバックとか、QBとラインバッカーという兄弟なら、直接対決でどっちが勝つかおもしろそうなんだけど(でも兄弟仲はこじれるだろうね)

ところが同じポジション、しかも兄弟とも現在NFL現役という兄弟もいるんです。ライオンズのタイ・デトマーと、イーグルスのコイ・デトマーの兄弟は、ともにQB。
タイはチームを渡り歩いていますが(現在は5球団目)、イーグルスにも在籍したことがあって、一年間だけ兄弟で同じチームでQBをやっていた。兄弟とも先発QBをつとめたことがあるのは、NFL史上デトマー兄弟だけなのだそうだ(テリー・ブラッドショーも、クレイグとともに兄弟QBを務めたそうだが、クレイグは先発したことはない)

じゃあ、デトマー兄弟はどっちがすごいのか?
実は、どちらもパッとしなかったりする(わら)

兄のタイ・デトマーは、あのサンフランシスコ49ersの名QBヤングも輩出したブリガムヤング大学の出身で、大学フットボールの最優秀選手に贈られるハイズマン賞を受賞しているほど、カレッジ界ではぶいぶい言わせてた。当時東京ドームでおこなわれていた全米学生オールスター戦「コカコーラボウル」に出場のため来日したこともある。
ところが実は、QBでハイズマン賞をとった選手はプロで大成しないというジンクスがある。などというとマスターから「レイダースのジム・ブランケットがいるぞ。ヤツはハイズマントロフィーとスーパーボウルリングを両方持ってるQBだ」と突っ込みが入りそうだけど、逆にそれくらいしか例がないほど稀有なことというわけだ。

アメリカンフットボールでは、チームに入団した選手はチームの作戦ノートを覚えるのにまず苦労すると言われるほど。まして司令塔のQBは、チームとしては時間をかけてじっくり育てたい。というわけで、学生時代にある程度完成してしまったようなQBを、わざわざドラフトで早い順番を使ってまで指名したくはないわけ(なんでもいいから劇的にチームを変えたいという事情のチームは別として)
で、タイは全米最優秀選手なのにドラフト9巡目(全体の230人目)という低評価でパッカーズに入団、しかも在籍4年間で7試合しか出場せずイーグルスに移籍。ここでの2年間はそこそこ活躍し、3000ヤード近く投げた年もあったけど、その後もチームを渡り歩いて現在はライオンズでバックアップQBとして控えている。

一方、弟コイも、大学時代には学校の記録を次々と破るほどの新星だった。イーグルスに入団し今年6年目だけど、初年は出場がなかったものの、2年目には5試合に先発し計1000ヤード以上のパスを投げている。
ところが一昨年は、全16試合に出場しながら、パスを投げたのは1回だけでしかもパス失敗、0ヤードという記録だった。去年も全試合に出場して、けど14回投げて5回成功51ヤード。
今年なんてこれまで10試合に出場して、2回投げて1回成功、おまけにこの1回はロスだったため、今年のパス記録はマイナス3ヤードという妙なことになってる(わら)

実はコイは、控えQBの定番である「ホルダー」として出場しているのだ。
ホルダーというのはフィールドゴールのときに、キッカーが蹴るまでボールを立てて押さえる係のこと。漫画「スヌーピー」で、チャーリーブラウンがボールを蹴ろうとするときにルーシーがボールを指先でおさえている場面がよく出てくるが、あのルーシーの役回りを地味~にやっているというわけだ。ちなみにルーシーは、チャーリーブラウンが蹴ろうとする瞬間にボールを取り上げたりするけど、もちろん本物のホルダーはそんなことはしないよ。

さて、こんなデトマー兄弟の場合、兄タイと弟コイはどっちがすごいのだろう。
どっちもパッとしない?そうだね、パッとしないねぇ。
しかし!あえて持ち上げるなら、二人ともまだ現役なんだからこれからどんなすごい選手になるかわからない。なんつったってアメリカンドリームの本場なんだから。

たとえばかつてジャイアンツに、ジム・ホステトラーというQBがいた。チームにはフィル・シムズという超すごいQBがいたので、ホステトラーはずっとベンチで控えだった。しかも風采からしてどこか洋モノのポルノ男優を思わせるような、いかにもパッとしないヤツだったんだ。
ところがある年、チームがプレイオフ進出を決めたのに、シムズが負傷して出場不可能となってしまった。誰もが「今年のジャイアンツは終わった」と思った。けど、ホステトラーはプレイオフから先発し、そのまま勝ち上がってスーパーボウルも優勝。一躍、時の人になってしまったのだ。

そういうことが実際におこる世界なのだから、デトマー兄弟も現役である限りどうなるかわからない。

まして鯛と鯉という、いかにも目出度そうな名前をもつ兄弟なのだ。どっちがすごいかなんて話しは、まだ早すぎる。


このコラムを「スポーツは楽し」というサイトに掲載後、「兄弟でワイドレシーバーをやってるイズマイル兄弟がいるじゃないか」という指摘をいただきました。実は筆者、イズマイル兄弟にはけっこう注目していた時期もあっただけに、完全に失念していたこと恥ずかしい限りです。
兄ラジブ・イズマイルは、学生時代から「ロケット・イズマイル」と呼ばれた俊足レシーバーとして名をとどろかせていた選手で、高校生でオールアメリカンに選ばれたほか、州の大会で2度優勝、ついでに幅跳び、100m、リレーなどでも州の大会に出場し、いくつか優勝。1993年にレイダースに入団して以来、計3チームで10年をすごし、現在はカウボーイズに在籍。フィールドのどこからでも得点できると評されています。
弟のカードリー・イズマイルは、誰かが兄に対抗させようとして考えたのか「ミサイル・イズマイル」というあだ名をつけられましたが、ロケットほどは定着しなかったようです。それでも、「兄の七光り」なんて通用しないNFLで立派に通用する実力の持ち主。
今のところパッとしないデトマー兄弟に比べて、イズマイル兄弟はすでに「NFLの同ポジション兄弟アスリート」の筆頭ですね。

作成:2002年11月19日
更新:2004年4月30日

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