イラクの劇団アル・ムルワッス

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2004年10月13日、会社帰りに、芝居小屋「新宿タイニィ・アリス」に行った。お目当ては初来日のイラクの劇団「アル・ムルワッス」

フセイン政権下では芸術家たちは監視され抑圧されていたそうだ。そしてフセイン政権崩壊後は、劇団員は銃を手に劇場を守ってきたという。劇団員がバクダッドから逃げ出したり、爆弾事件に巻き込まれたり、身内が死んだりという状況で、稽古をしてきたという。
現代劇ということで守備範囲ではないと思ったのだけど、文字通りの意味で命をかけて芝居をしている彼らを観ておくべきだと思った。命をかけて何かを守ってきた者たちが、何を守ってきたのかを見届けたいと思った。

ただし、芝居は芝居として楽しもうと決めていた。「大変な中でがんばってきたんだねぇ」という先入観で彼らに目を向けるのはむしろ失礼だと思うから。

タイトルは「イラクから、船乗りたちのメッセージ」。
第一部では、イラクの主に南部の伝統的な音楽とダンスが展開。「若きシンドバッドが束縛の中で苦しみながらついに羽ばたく」というテーマのパントマイムが曲間をつないでいく。パントマイムも正直よくわからないし、そもそも芝居には素人なので完成度としてどうなのかもよくわからない。
第二部はパントマイムだけの展開で、遠くで列車の音がするたびに「ここではないどこか」へ旅立ちたいと思いながら、鍵だらけの部屋から抜け出せないというストーリー。やっぱりパントマイムの表現は見慣れてないこともあってわかりにくかった。

ただ、第一部の音楽とダンスはとても素晴らしかった。ノリやすいというか、立ち上がって一緒に踊りたいくらいだった。ダンスシーンでの役者たちの表情も、とても惹きこまれる。「本当に命をかけて守ってきたものをこうして遠い異国の地で演じられる喜びか」とはあとから思ったのだけど、見てるときは「こいつら、本当にいい笑顔だよなぁ」と。役者なのだから表情をつくる技術はもちろんあるだろうけれど、それを差っ引いても「イイやつら」って感じだった。車座になって夜明けまで酒を酌み交わしたいくらい。もっとも、ムスリムだろうから酒を酌み交わすのは無理かもしれないけど。

第一部の最後の曲だけは、歌い継がれたものではなく今回の公演のために作った新曲だった。「私たちはへこたれてはいない。日本の人たちよ、ありがとう」と歌うこの歌が「船乗りたちのメッセージ」だった。
パントマイムの途中で、アラブ語で書かれた歌詞が客席に配られた。パンフにあった日本語詞を以下に紹介しておく。

イラク2,500万の同胞から日本の人々へのメッセージ

さあ、船を漕ぎ出そう
私たちは大丈夫、へこたれてはいない
心配しないで
すべてのイラク人から愛をこめて
私たちは日本の友人たちに会いに来た
もちろん苦しみは長く困難は続く
だがすべて、いつかは終わる
日本の人々は私たちを助けてくれる
助けてくれる人々のことを私たちは決して忘れはしない
日本の人々に幸いあれ
大丈夫、私たちはへこたれちゃいない
さあ、前へ前へと進んでいこう

彼らが国に帰ったら、また危険な日々なのだろう。私が彼らに何かできるわけでもない。ただ、確かに見届けたよ、と思う。

作成:2004年10月13日

布忠.com