キリスト語録

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第5回 最初の奇跡

「わたしの時はまだ来ていません。」(ヨハネ福音書2章4)

イエス・キリストがナタナエルたちと出会ってから三日目のこと。ガリラヤのカナというところで婚礼がありました。イエスの母マリアが婚礼の裏方を手伝い、イエスも弟子たちも招待されていましたから、親族の結婚式だったのかもしれません。
ところがそのめでたい宴席で、重大な事態になってしまいました。なんと、ワインが切れてしまったのです。さあどうしたものかと思案したマリアは、何かを期待してかそれともただぼやいたのか、イエスに「ワインがなくなってしまった」と伝えたのです。

このときのイエスの返事がすごい。
「婦人よ、わたしとどんなかかわりがあるのです。わたしの時はまだ来ていません。」だって!
「女の人よ」と訳されたりもします。「お母さん」と呼ぶ代わりに「そこの女の人」などと、これはどんな親不孝者のいうことか。

実はこの「婦人よ」とういのは、英語でいえばレディにあたる言葉なのだそうです。でもそれにしても、「私には関係ないでしょ」だなんて。
これでは、カトリックでは聖母と言われるマリアといえども、怒りもあらわにふるえながら「この親不孝者!そんな子に育てたおぼえは」・・・となるかと思うところですが、マリアは平然としているのです。それどころか、イエスが「関係ない」と言ってるのに、マリアは使用人たちに「この人の指示に従ってください」と言っているのです。

おそらくイエスは、何かの意味を込めて言った。マリアはその意味を察した。
だから、読んでる私たちにはチンプンカンプンでも会話が成立した。
そうとしか思えないわけですが、ではその意味とは。

すでにイエスは、弟子集めの布石を打ち始めていました。今はまだ「時ではない」のですが、もう間もなくキリスト(救世主)として行動を始めようとしているのです。イエスが「創造者とひとつである、キリストである自分」を示すということは、周囲の人(たとえ実母といえども)は信仰によってイエスと関係するか、無関係(=敵)になるかしかないのです。(イエスはのちに「父なる神の心にかなう生き方をする人が、私の兄弟、姉妹、母である」と断言します)

イエスが創造者ヤハウェによって特別な方法でこの世に生を受けたことを、身をもって知っているマリアは、理解できたかどうかはともかく(というのは、あとでイエスを家に連れ戻しに来たりもしますから)何かを直感的に覚ったのでしょう。
そうなると、マリアは創造者に対してストレートな信仰を持っていた人なので、創造者の力を受けているイエスなら、困っているのを助けてくれると素直に考えたのでしょう。「出番じゃない」とイエスが言っているのに、もう引き受けてくれた気で使用人に指示を出しているのです。

こうなるとイエスも、のちに「祈ることはすでにかなえられたと信じなさい」と教えるくらいですから、自分を信じている(息子をではなく、創造者の力を信じている)マリアに無碍(むげ)なことはできません。
イエスは、たぶんマリアの態度に苦笑しながら、使用人たちに「水がめに水をいっぱい入れなさい」と指示し、そして彼らがそのとおりにすると、「さあ、それをくんで宴会の世話役のところへ持って行きなさい」と言ったのでしょう。

ユダヤ人たちは昔からの言い伝えで身を清めることには神経質で、食事の前にも念入りに手を洗うのですが、そのために使う石の水がめがこの披露宴会場にも6個置いてありました。それぞれ約80~120リットルも入るものです。筆者はイスラエルに旅行したことがありますが、ホテルのレストランでは入口の脇に、水がめではありませんが水道があって、正統派ユダヤ人と思われる人たちが食事の前に手を清めていました。

もちろん、使用人たちは言われたとおりにしました。そして、世話役が水がめの中のものを味見すると。。。世話役は花婿を呼んで賞賛しました「誰でも最初に高級ワインを出して、酔って舌がにぶくなると安いワインを出すものだ。なのにあなたは、高級ワインを今まで取っておいたなんて」
世話人が驚いた以上に、そう言われた花婿も驚いたでしょう。そんな高級ワインがどこから来たのか、知っているのは使用人たちだけでした。

この、水を高級ワインに変えるという奇跡が、イエスが最初にした奇跡でした。聖書では「奇跡」ではなく「しるし(徴)」という言葉を使っています。イエスのおこなう奇跡は、奇跡を見せたりそれで誰かを助けるのが目的ではなく、それによって創造者の力を象徴し、創造者の持つ栄光を自分が持っていることを示すものなのです。

今回はマリアの信仰のために予定を変更して、自分がキリストであることを示す奇跡をおこなったイエスですが、本意としては「まだわたしの時ではない」と言っています。ではイエスの「時」とはいつなのでしょうか。

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作成:2002年
更新:2009年10月4日

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