ヨシュア記 第7回

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エリコ攻略(6章)

迫るイスラエル軍を前に、エリコは城門を堅く閉ざしていました。ヨシュア記第2章に登場した遊女ラハブは、イスラエルの2人の斥候を窓から逃がしたのですが、それは彼女の家(というか宿というか店)が[町の城壁の上に建っていて、彼女はその城壁の上に住んでいたから](*1)だと記録されています。そうとうな規模の城壁でしょう。カナン地方でも肥沃なこのあたりで外敵の攻撃から生き延びてきたのも、この城壁あってのことでしょう。もちろんイスラエル側には、映画に出てくるローマ軍のような城攻め用の巨大兵器はありません。

どうやってこの堅牢な敵を攻略するか。ヤハウェがヨシュアに与えた作戦指示は、かなり奇妙なものでした。

「全兵士はエリコの周囲を一周し、それを六日間続けなさい。角笛をたずさえた7人の祭司が、『神の箱』をかつぐ祭司を先導しなさい。七日目には七周し、祭司たちは角笛を長く吹き鳴らしなさい。それを聞いたら兵士たちも鬨【とき】の声を上げなさい。そうすれば城壁が崩れ落ちるから、兵士はそこから突入しなさい。」

ヨシュアはこれを祭司たちと兵たちに伝えました。
もしかしたら兵の中には、半信半疑な者もいたかもしれません。何もせずに城壁をめぐるなんてことに何の意味があるんだとか、その間に弓矢で狙われたらどうするんだとか。けれどそれでも、とりあえずこの命令には全イスラエルが忠実に従いました。

それは戦争と呼ぶには奇妙な光景だったでしょう。朝になって、イスラエルが進軍ラッパのように角笛を吹き鳴らしながらエリコに迫る。エリコ側ではついに決戦かと緊張が高まり、城門の内側には兵が集結し、城壁の上には見張りや弓兵が配置についたことでしょう。ところが、やってきたイスラエルは、祭服の7人が角笛を吹き鳴らし続けるほかは、約60万の軍勢が不気味に沈黙したまま。城壁にそって一周しただけで、また宿営地に帰って行ったのです。ただ城壁だけを頼りにしているだけで討って出るつもりもないエリコの兵たちは、矢を射掛けることもなくただ不気味に感じていたことでしょう。

これが来る日も来る日も繰り返されては、エリコは緊張のあまりパニック寸前になったのではと思うのですが。
あるいは、イスラエル軍の行動に何か呪術的な策があると考えたかもしれません。エリコ人が恐れていたのは、イスラエルではなく、イスラエルの神であるヤハウェでした。イスラエル軍だけなら、この城壁があれば何の問題もない。しかし相手はヤハウェ。大国エジプトを打ち負かし、海を切り開き、カナンの諸民族から流浪のイスラエルを40年も守り通した神。

そして七日目が来ました。この日だけイスラエルはエリコを7周し、7度目に角笛が吹き鳴らされたとき、ヨシュアはイスラエル全軍に向かって宣言しました。

鬨の声をあげよ。主【ヤハウェ】はあなたたちにこの町を与えられた。町とその中にあるものは、ことごとく滅ぼし尽くして主【ヤハウェ】にささげよ。ただし、遊女ラハブおよび彼女と一緒に家の中にいる者は皆、生かしておきなさい。][あなたたちはただ滅ぼし尽くすべきものを欲しがらないように気をつけ、滅ぼし尽くすべきものの一部でもかすめ取ってイスラエルの宿営全体を滅ぼすような不幸を招かないようにせよ。金、銀、銅器、鉄器はすべて主【ヤハウェ】にささげる聖なるものであるから、主【ヤハウェ】の宝物倉に納めよ。

その後の戦闘については、聖書は一文で済ませています。イスラエル軍60万人が一斉に鬨の声をあげると、ただそれだけで、あの堅牢な城壁が崩れ落ちたとのです。
あとは[民はそれぞれ、その場から町に突入し、この町を占領した。]と記録されているだけ。城壁を失ったエリコ人はなす術なく、もはや戦闘とさえ呼べない[男も女も、若者も老人も、また牛、羊、ろばに至るまで町にあるものはことごとく剣にかけて滅ぼし尽く]す一方的な展開で、ただラハブとその親族だけが、先にエリコに偵察に入った二人によって連れ出されたのでした。

戦いのあとイスラエルは[町とその中のすべてのものを焼き払い、金、銀、銅器、鉄器だけを主【ヤハウェ】の宝物倉に納めた。]と記録されています。
普通、戦闘のあとは略奪の時となります。それが戦闘に参加した兵士への報酬という時代でした。しかしエリコが滅ぼされたのは神ヤハウェの裁きだったため、エリコ人の財産だったものはイスラエルの民の財産とするのではなくすべてヤハウェに帰すものとされ、土に返るものは焼き払い金属製品だけをヤハウェの宝物倉におさめたのです。火で精錬される金属類はけがれをきよめることができますが、土器はけがれた場合は破壊することが定められていました(レビ記11章33)

・・・いえ、正確には、すべてをヤハウェに帰属させたはずだった、というべきでしょう。これまでもヤハウェに反抗することの多かったイスラエルですから、60万人も兵士がいると中にはとんでもないヤツもいて、とんでもないことを引き起こすのです。が、それは次回に。

ともかくこうして、イスラエルはただヤハウェの力によって勝利しました。
聖書は[主【ヤハウェ】がヨシュアと共におられたので、彼の名声はこの地方一帯に広まった。]と記録しています。イスラエルの兵士でも武器でもなく、イスラエルの神、力ある神こそが恐れられたのです。ヨシュアの将としての力ではなく、力ある神が彼とともにあることが恐れられたのです。

有名な黒人霊歌「ジェリコの戦い」は、この戦いを歌ったものです。

Joshua fit the battle of Jericho, Jericho, Jericho,
and the walls came tumbling down.
曲はこちらのサイトで聞くことができます
訳詞の全文はこちらで


*1 ヨシュア記2章15の口語訳。新改訳では[彼女の家は城壁の中に建て込まれていて、彼女はその城壁の中に住んでいたからである。]

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#150
作成:2006年3月6日

布忠.com