民数記 第14回

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モアブの王バラク(22章2節~24章)

占い師バラム

現代でも、占いなんて非科学的だ、信じない、と言いながら、でもTVや雑誌でいい占いが出ていればいい気分になったり、よくない結果が出れば少しは気になったりすることもあるでしょう。

まして、神秘の分野と政治が深くかかわっていた時代のこと。モアブの王バラクは、自分の国より強大な国々がイスラエルに敗北していくのを見たとき、自分の兵力ではどうしようもないと悟り、高名な占い師バラムを招こうと使者を送りました。
バラムの占いはよくあたり、まるでバラムが祝福すると幸いがあり、バラムが呪う災厄が来るかのようです。王は、イスラエルに勝利するにはバラムがイスラエルを呪うしかないと考えたのです。

使者の訪問を受けたバラムは、ヤハウェのお告げが下るまで一晩待てと言いました。
イスラエル人ではないバラムがヤハウェの名を出したのは、シャーマンの基礎知識として諸民族の神々についてもある程度の情報を持っていて、イスラエルのことはイスラエルの神にたずねようとしたものでしょう。はたしてその夜[あなたは彼らと一緒に行ってはならない。この民を呪ってはならない。彼らは祝福されているからだ。]とお告げがあったことが記録されています。

相手が喜ぶことだけを告げるニセ占い師ならともかく、良くも悪くも(*1)バラムは本物。神託に従わないわけにはいかず使者を帰らせました。
しかしバラク王としては、バラムがイスラエルを呪ってくれるかどうかは国の存亡がかかる一大事。さらに高位の者を使者として送り、報酬も言い値だと言いました。
バラムはこう答えました。[家に満ちる金銀を贈ってくれても、わたしの神、主の言葉に逆らうことは、事の大小を問わず何もできません]。
プロとして神託にそむくことはできないということか。と思ったら、[主【ヤハウェ】がわたしに、この上何とお告げになるか、確かめさせてください]と駆け引きに出たのです。
バラムは新約聖書で[不義のもうけを好み][常軌を逸した行い]をしようとした(*2)と評されています。報酬次第では神託を曲げようとしたのでしょう。
すると今度はヤハウェは[彼らと共に行くがよい。しかし、わたしがあなたに告げることだけを行わねばならない]と告げたのです。

しゃべるロバ

しかし神の言葉よりも自分の思いを優先することは聖書では罪。ましてバラムの思いは欲によるものです。バラムがロバに乗って出発したとたん[神の怒りが燃え上がった]と記録されています。

ぶどう畑の細い道を進んでいたとき、ロバの前に、天使が抜き身の剣を手にして立ちふさがりました。本当ならバラムにも見えるはずだったのかもしれませんが、忠義なロバの目には見えても、罪あるバラムの目には何も見えないのです。
ロバは主人と自分を守るために進路を変えて畑に逃げ込みました。わけのわからないバラムはロバを叩いて道に戻しましたが、それでもロバは逃げようとして方向転換。すると石垣とロバの間にバラムの足がはさまり、バラムはまたロバを打ち叩く。そうこうする間に天使が間を詰めてきたのを見たロバは、もはやこれまでと思ったかそのままうずくまってしまいました。

バラムは怒りを燃え上がらせてロバを杖で打った、と記録されています。「せっかくの儲け話しだというのに、何をぐずぐずしてるんだ」という怒りでしょう。しかしロバにしてみれば、主人を守ろうとしたのに叩かれては納得いきません。そこでロバは、なんと人間の言葉で「わたしがあなたに何をしたというのですか」と文句を言いだしたのです。ロバに人間の言葉を与えたのはもちろんヤハウェです。
バラムは驚いたでしょうが、そこは超自然の分野のプロ、平然と「お前が勝手なことをするからだ。もし剣があったら即座に殺していただろう」と言い返しました。しかしロバに「今まであなたに、このようなことをしたことがあるでしょうか」と言われてみれば、「いや、なかった」と日ごろの忠義を思い出さざるをえません。そのときヤハウェはバラムの目を開き、天使が剣を持って立ちふさがってるのを見せました。ようやく状況を把握したバラムは、あわててひれ伏したのです。

天使は「ロバが私を避けていなかったら、あなたを殺していたであろう」と、欲のためにヤハウェの言葉を曲げようとしたバラムに怒りの言葉を向けました。
しかし、過ちを悟ったバラムが「もしも意に反するのでしたら、わたしは引き返します」というと、天使は行けと命じたのです。[ただわたしがあなたに告げることだけを告げなさい]と念を押した上で。ヤハウェがイスラエルを祝福していることをバラク王に示すのが、バラムの役目なのです。
ここにバラムは進退きわまりました。バラクはイスラエルを呪わせようとしてバラムを呼んでいるのに、これでは褒賞がふいになるばかりか、下手をすれば王の怒りに触れないとも限りません。がしかし腐っても占い師、バラムにとっては、人間の王よりも神のほうが何倍も恐るべき存在なのです。

バラムの託宣

バラムの到着を知ったバラク王は歓迎に出てきましたが、バラムは[わたしに、何かを自由に告げる力があるでしょうか。わたしは、神がわたしの口に授けられる言葉だけを告げねばなりません]というのみでした。
しかしバラムだけが頼りのバラク王は、翌朝さっそくイスラエルの民の一部が見える丘の上にバラムを連れて行きました。
そこでバラムは王に七基の祭壇をつくらせ、いけにえとする雄牛と雄羊を用意させ、自分はひとり丘の頂上に立ち、ヤハウェからお告げを受けてまた王のもとに戻りました。

しかしバラムの口からでた言葉は、バラク王の期待を裏切る祝福の言葉でした。
[神が呪いをかけぬものに、どうしてわたしが呪いをかけられよう][誰がイスラエルの無数の民を数えられようか][わたしの終わりは彼らと同じようでありたい]

「バラムほどの占い師が呪えば、イスラエルなど滅び去る」と考えていたバラク王にとっては、「バラムほどの占い師が祝福するなら、イスラエルに敵することなどできるわけがない」ということになります。しかし他に手が無いバラク王は、違う角度からイスラエルを見れば神託もかわるだろうと思ってか、別の山にバラムを連れて行きました。
でも今度も[神の祝福されたものをわたしが取り消すことはできない][だれもヤコブのうちに災いを認めず、イスラエルのうちに悩みを見る者はない][見よ、この民は雌獅子のように身を起こし、雄獅子のように立ち上がる]とまたも祝福する内容。しかも[ヤコブのうちにまじないはなく、イスラエルのうちに占いはない]と、占いでなんとかしようとしたバラク王の考えなど通用しないというかのようです。

バラク王は「呪いをかけることができないなら、祝福もしないでくれ」と悲鳴を上げ、さらに違う山にバラムを連れていって占わせます。
ですが今度も[いかに良いことか、ヤコブよ、あなたの天幕は。イスラエルよ、あなたの住む所は][彼らは、敵対する国を食らい尽くし、骨を砕き、矢で刺し通す]と、ますます祝福する託宣が語られたのです。しかも[あなた(イスラエル)を祝福する者は祝福され、あなたを呪う者は呪われる]と、イスラエルを呪おうとすればするほどマズイことになるとまで示されました。

ついにバラク王はバラムに対して激しく怒り出し、(命の心配をしていたであろうバラムにとっては幸運なことに)報酬は無しだ、とっとと帰れと言い出しました。
それに対してバラムは最後に、未来のイスラエルがバラク王の民モアブの子孫に何をするかについての神託を告げたのです。

わたしには彼が見える。しかし、今はいない。
彼を仰いでいる。しかし、間近にではない。
ひとつの星がヤコブから進み出る。
ひとつの笏(しゃく=王権の象徴)がイスラエルから立ち上がり
モアブのこめかみを打ち砕き
シェトのすべての子らの頭の頂を砕く。

イスラエルから現れる一人の王がモアブを打ち破るという、予言的な預言の言葉を残してバラムは帰っていきました。

一方、バラク王も自分の道を帰っていった、と記録されています。このときはバラムとイスラエルの間には戦闘は起こらなかったのです。こうしてイスラエルは、自分たちが気づかないうちにヤハウェに守られたのでした。
しかしモアブはまだ、イスラエルの脅威となります。バラク王もバラムも、ただ帰っていったわけではなかったのです。


*1 申命記18章10-11でヤハウェは占いを禁じているので、聖書的には「良い占い師」というものはない。

*2 ペトロの手紙二2章15-16

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#118
作成:2002年11月8日
更新:2002年12月29日

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