神ヤハウェに命じられ、モーセとアロンはふたたびファラオの前に立ちました。このとき、モーセは80歳、その兄アロンは83歳であったと記録されています。
年寄り二人で何ができるのか?いえ、モーセたちが戦うのではなく、ヤハウェ自身がファラオと戦うのです。
第一回の会見で「ヘブライ人の神、主とは何者か」と言ったファラオに対し、モーセとアロンはヤハウェの力による奇跡を示します。アロンが自分の杖をファラオと家臣たちの前に投げると、ヤハウェはシナイ山でモーセに見せたように、杖を蛇に変えたのです。
しかしファラオは「ヘブライ人の神とはその程度か」とばかりに、お抱えの魔術師に同じことをさせました。アロンの杖の蛇が魔術師たちの杖の蛇を飲み込んでしまいましたが、それくらいのことでは、ファラオの頑迷さを破ることはできませんでした。
翌朝、モーセとアロンはヤハウェに言われて、ナイル川の岸辺でファラオを待ちました。そして王が水辺に下りてくると、「これによって、ヘブライ人の神こそ主であると知れ」と言って、川の水面を杖で打ったのです。
すると何と、エジプトの母なる川ナイルの水がことごとく血に変わったのです。魚は死に、川は悪臭を放つようになりました。
ところが今度も「エジプトの魔術師も秘術を用いて同じことを行った」と記録されています。そしてファラオは事態を気にも留めず、王宮に引き返したのです。
ナイル川が血のように赤く染まること自体は、別に珍しくもなかったのです。ナイルは6月ころに水量が最も少なくなりますが、その時期に赤い藻が発生して、赤潮のような影響を与えることがあるそうです。あるいは、上流から流れてくる赤い泥は、水量が少ない時期には相対的に川を濃く染めたように見せたでしょう。
たとえば戦前戦中の日本政府に外国人が「炭坑や工場の労働者をすぐに解放せよ。さもなければ神が台風を送ってくるぞ」と言ったとしましょう。そしてその通りに台風が来たとしたら?「今年の台風は被害が大きかったな」くらいは思っても、それが神からの災厄だなどと誰も思わないでしょう。
それから1週間後。モーセはファラオの前に出て「まだわからないのか」と言うと、アロンに「杖を取って、河川、水路、池の上に手を伸ばし、カエルをエジプトの国にはい上がらせよ」と命じました。
すると、おびただしいほどのカエルが現れ、エジプト全土を覆ったのです。王の家も下々の家も関係なく、寝室からかまど、パンをこねる鉢にまで、カエルで溢れました。しかもエジプトの魔術師が同じことをしたものだから、事態に拍車がかかります。
エジプト人の信仰はカエルを神々の一人としていましたから、このカエルを殺したりできなかったのではないかと思います。エジプト人の母なるナイルをダメにしたヤハウェは、今度はエジプト人が神と信じるものによってエジプトに災厄を与えたのです。
この事態についにファラオは、はじめて自分のほうからモーセとアロンを呼び出し、「主に祈願して、蛙がわたしとわたしの民のもとから退くようにしてもらいたい。そうすれば、民を去らせ、主に犠牲をささげさせよう」と言い出しました。
モーセはファラオに「いつカエルを退かせようか」とたずねました。カエルが大量発生するくらい毎年のことでしたから、カエルは偶然いなくなった、現れたのも偶然だったのだ、とファラオに言わせないため、ヘブライ人の神ヤハウェによって事がなされるのだとファラオにわからせるためです。
ファラオが「明日」と答えると、モーセはヤハウェに祈り求め、カエルはすべて死んでナイル川以外には残らなくなりました。
ところがファラオは、カエルがいなくなり(山のようなカエルの死骸の悪臭をしばらく我慢し、衛生対策もほどこす必要があったでしょうが)とりあえず一息つけるようになると、あっさり前言を撤回したのです。モーセに「民を去らせる」と言ったのはカエルをなんとかするための手でしかなかったわけです。
ナイルが赤く染まったのも、カエルの異常発生も、このあとの災厄も、自然現象で説明がつきます。しかし、へブラ人の神の思い通りに災厄が発生し、しかもエジプトの魔術師にはマネできないことになっていきます。ファラオはどう出るでしょうか。
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