創世記 第54回

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ヤコブの苦悩(42章29節~43章15節)

9人の兄弟はカナン地方で待つ父ヤコブのもとに帰ると、自分たちの身に起こったことをすべて報告しました。つまりエジプトの主君が自分たちをスパイと断じたこと、末の弟を連れてこない限り信用しないと言ったこと、それまでシメオンを牢に入れたこと、兄弟の1人の荷に払ったはずの銀が戻されていたこと、などです。

それから各自が荷を下ろしましたが、荷の中を見ると全員の袋の中にも、それぞれが支払ったはずの銀が包みごと入っていたのです。
ヨセフの言動が兄たちへの復讐でないとすると、まごころから銀を返したことになります。が9人はもちろんヤコブも混乱し、息子たちに向かってついにキレてしまいました。

お前たちは、わたしから次々と子供を奪ってしまった。ヨセフを失い、シメオンも失った。その上ベニヤミンまでも取り上げるのか。みんなわたしを苦しめることばかりだ。

やはりヤコブは、ヨセフが死んだのは兄弟が怪しいと思っていたのか。
長兄ルベンは、もしベニヤミンを連れ帰らないようなことがあれば自分の息子たちを殺していいとまで言いますが、ヤコブは「おまえたちは白髪の父を悲嘆とともにあの世に送りたいのか」と聞こうともしません。
人質となっているシメオンとベニヤミンを秤にかけたというより、尋常ではない事態に不安を感じ、思考が停止したこのじいさまは、ただベニヤミンを抱きしめて「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃあ~!」。(筆者、ちょっと場面を想像しすぎてます)

しかしヤコブたちは、飢饉が7年も続くとは知りません。9人が買ってきた穀物も食べ尽くしても、この地方の飢饉はひどくなる一方です。先の買出しのときも兄弟だけでいったわけではなく、奴隷や使用人をつれロバかラクダを引いて、かなり買いこんできたことでしょう。しかしヤコブは資産家、つまり奴隷や家畜が山ほどいたのです。それが、すでに飢饉は丸2年も続いている。
ヤコブは息子たちに、もう一度エジプトに買出しに行ってくるようにと言いました。

たぶん、ユダはこのときを待っていたのでしょう。「一族の餓死か、ベニヤミンを預けるか」の決断を父のほうから切り出す時を。(←筆者の想像ですが)
長男ルベンではなく四男のユダが、ベニヤミンを同行させてくれない限り、あのエジプトの主君の前に立つことはできないのだと父にうったえます。

ヤコブは「なんで、もう一人弟がいるなんて言ったんだ」とぼやきますがついに折れ、「どうしてもそうしなければならないのなら」と承諾します。
そして、そのエジプトの主君に礼を尽くして、贈り物に土地の名産を持っていくように指示します。乳香、樹脂、没薬【もつやく】といった香料類。蜜、高級料理に使うピスタチオやアーモンドの実。これらはエジプト人が好む品々です。また、前回袋に戻されていた銀も持っていって返すようにと言いました。銀が戻されていたことの理解に苦しんでいたのでしょう。

そして最後にこう言うのです。[どうか、全能の神がその人の前でお前たちにあわれみをほどこし、もう一人の兄弟(シメオン)と、このベニヤミンを返してくださいますように。このわたしがどうしても子供を失わねばならないのなら、失ってもよい。]

ヤハウェに信頼してすべてをゆだねたというよりも、どうすることもできない状況に打ちひしがれ、ヤハウェにすがりつく中で自分に言い聞かせるようにベニヤミンへの執着を断とうとするようです。
この老人にとってそれほど苦痛だったのです。先に愛するヨセフを失い、今また愛するベニヤミンを手放さなければならないということは。

アブラハムが神から「息子イサクをいけにえとして捧げよ」と命じられた時(→22章)と似た展開です。
しかしヨセフが旅立たなければならなかったのと同様、ヤコブも執着心を捨てることを学ばなければならなかったのです。(→ルカ14:33、マルコ10:29-30)

さて。こうして兄弟たちは、ベニヤミンをつれてエジプトへと向かったのですが、ヨセフは今度はどう対応してくるのでしょうか。

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2版:2003年05月19日

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