創世記 第52回

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牢獄から王宮へ(41章)

ファラオの夢

給仕長がファラオにゆるされて復職してから二年が経ち、ヨセフが30歳のときのことです。ファラオはある夢を見ましたが、それはこんな内容でした。
-ファラオがナイル川のほとりに立っていると、毛色よいよく肥えた雌牛が7頭、川から上がってきた。そこへあとから醜いやせ細った雌牛7頭があがってきて、肥えた雌牛を食い尽くした。-

ここで目がさめ、もう一度眠ると、今度はこんな夢でした。
-一本の茎から、太ってよく実った7つの穂がでた。そこへあとから実が入っていない、砂漠の風でカラカラになった7つの穂がはえてきて、よい7つの穂を飲み込んだ。-

目がさめたファラオは強く胸騒ぎがしました。映像はことなりますがモチーフが同じに思える夢を続けてみたことで「この夢は、何か意味があるに違いない」と思ったファラオは、エジプト中の魔術師や賢者を召集しましたが、ファラオの夢を解き明かせる者はいません。

例の給仕長はこのとき、ヨセフを忘れることにしていた罪を告白して、ファラオにヨセフのことを進言しました。かつて自分と料理長が王の怒りにふれて牢獄にいたとき、ヘブライ人の若者がいて自分と料理長の夢を解き、その解いたとおりになったことを。

だからといって、エジプト人が見下していたヘブライ人の、しかも囚人を召し出したのは、ファラオは「誰でもいいからこの夢を解いてすっきりさせてくれ」と思ったからなのでしょう。こうしてヨセフはようやく牢から出されたのです。
身だしなみを整え現れたヨセフに、ファラオは「聞くところによれば、お前は夢を解き明かすことができるそうだが」と切り出しました。するとヨセフは「わたしが解くのではなく、神が告げるのです」と答え、ファラオの夢を聞いたこう解き明かしました。
「ふたつの夢は同じ意味で、神がこれからなさることをお告げになったもの。7頭のよい雌牛と7つのよい穂は、これから7年間、エジプト全土に大豊作が来ることを告げています。あとから現れた7頭の悪い牛と7つの悪い穂は、そののち7年間、大豊作のことを忘れるほどの大飢饉が来ることを告げています。ファラオが二度も重ねて夢を見たのは、このことの確実さを神が知らせるためです」

宰相ヨセフ

さらにヨセフは、ファラオに勧めました。
「だから今すぐ、聡明で知恵のある人物を探して国を治めさせ、国中に監督官を立て、豊作の7年間に食料をできる限り集めさせて蓄えさせるようになさいませ。そうすれば、飢饉による滅亡はまぬがれましょう」

するとファラオは家来たちに「このように神の霊が宿っている人はほかにあるだろうか」と言いだしました。エジプトの賢者も魔術師も解けなかった夢を「神が告げます」といってヨセフが解いたのをみて、さすがに太陽神ラーの化身であるファラオがそう簡単にはヤハウェに帰依しませんでしたが「ヨセフとともにある神は、ほかの神々とは違う」とさとったようです。

そこでファラオはヨセフに言いました。
「聡明で知恵のある者を立てろとな。神がすべてをお前に示されたのは、お前こそ聡明で知恵があるからであろう。お前をわが宮廷の責任者とする。全国民はお前の命令に従い、わたしがお前にまさるのは、ただ王位のみだ。」
そういってファラオは、指輪をはずしてヨセフの指にはめました。この指輪は印章になっていて、ファラオの名においてどんな文書も発行できるのですから、これは全権委任です。ポティファルや看守長が「神がともにあるヨセフにまかせれば、何も心配しなくていい」と判断したのと同様に、ファラオも「この国家の一大事も、神とともにあるヨセフにまかせれば、何も心配しなくていい」と判断したのです。

そしてファラオはヨセフに宮廷服を着させ、金の首飾りを彼の首にかけ、王の第二の車に乗せました。
さらに、ツァフェナト・パネアというエジプト名をヨセフに与え、エジプトの祭司の娘を妻として与えました。外国人のままでは政務に支障もあろうと思って帰化させたのでしょう。

ヨセフはファラオの前を辞すると全国を巡回し、豊作の7年の間に穀物をできるかぎり集め、町ごとに蓄えさせました。その豊作は、あまりの収穫についに文字通り量りきれなくなり、ついにヨセフは量るのをやめてしまったほどでした。

ヨセフの子ら

飢饉のやってくる前年に、ヨセフには二人の息子が生まれました。ヨセフは「神が、わたしの労苦と父の家のことをすべて忘れさせてくださった」といって、長男に「マナセ(忘れさせる)」と名づけ、次男には「神は、悩みの地で、わたしに子孫を増やしてくださった」といって「エフライム(増やす)」と名づけました。
マナセの子孫からは、士師の時代に勇者ギデオンが現れます。エフライムの子孫からは、モーセの後継者ヨシュアが現れるのです。

さて、驚異的な豊作のあと、驚異的な飢饉がやってきます。この飢饉はエジプトのみならず周辺地域をも席捲するのです。というより、肥沃なエジプトでさえ飢饉の時に、パレスティナは大丈夫ということはありません。ヨセフの父ヤコブたちは、どうしているでしょうか。

おまけ1

マナセ        Manasseh
エフライム      Ephraim
ツァフェナト・パネア Zaphenath Paneah(現代英語訳)
           Zaphnath-Paaneah(新欽定訳)
           意味は未詳。「神は語り、彼(ヨセフ)は生きる」の意味ではないかという説あり。

ヨセフの地位

ヨセフは政治の全権を委ねられました。ファラオはただその地位においてのみヨセフより上位に立ちました。
このヨセフ、現代で言ったらどういう立場でしょうか。ファラオが大統領でヨセフが副大統領か、ファラオが首相でヨセフが副首相か。

現代日本では、首相というのは「内閣を構成する大臣たちの首席」といったところでしょう。大臣のことを「○○相」と言いますが、「○○相たちの首席」が「首相」ということになります。
じゃあなぜ大臣を「相」というのか。
もともと漢語では、君主に仕えて国政を補佐する者のことを宰相と呼びました。その宰相のトップ、つまり首席宰相を略して首相というのだそうです。

大統領と首相がいるイスラエルなどは、元首は大統領で、国政を担うのが首相という国柄ということです。
首相がいて、その首相を含む内閣の助言によって天皇が国事行為を行うという日本の国柄は、首相と国家元首のわかりやすい例でしょう。

ファラオは政治の全権をヨセフに渡して、ただ地位においてのみヨセフの上に立つ者となりました。
ファラオが政務を離れてしまったのであれば、「ファラオが大統領でヨセフが大統領補佐官」でも「ファラオが首相でヨセフが副首相」でもありません。ファラオはただ王として「君臨する者」となり、ヨセフは首席宰相つまり首相として「統治する者」になったわけです。

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2版:2003年05月19日
更新:2013年10月28日

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