創世記 第41回

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故郷へ(32章2節~24)

そもそも、ヤコブが父イサクの家を出たのは、エサウに命を狙われたからでした。(その原因はヤコブの方にあったわけですが)エサウの殺意を知った母がヤコブを逃がし、エサウの怒りがおさまったら呼び戻すから、と言ったのです。

ヤハウェの指示で20年ぶりの帰を決意したヤコブですが、まだ母から迎えは来ていません。ヤコブはヤハウェを信頼しながらも、エサウへの恐れを振り切れません。

信仰と恐れのあいだで

でも、往路でヤコブを「創造者が一緒にいてくれる」と力づけたヤハウェが、この帰路でもはげましました。[突然、神の御使い(みつかい=天使)たちが現れた]のです。しかもヤコブが[ここは神の陣営だ]と言うほどの大軍で。ラバンへの介入といい、天使軍団の護衛といい、もう何も怖くないぞと。

・・・といいたいところですが、それでもエサウが怖い。これほど具体的に「全能の創造者が味方だ」という経験をしたヤコブでさえ、今そこにある危機の前では、ヤハウェへの信頼を維持するのは容易ではなかったのです。

というわけでヤコブは、とにかく先方の情勢を探ろうと、使者をエサウのもとに送ることにしました。
このとき使者に命じた口上は、

あなたのしもべヤコブは…使いの者を御主人様のもとに送って…御機嫌をおうかがいいたします。

最後のところは「あなたのご好意を得ようと」(新改訳)とも訳されていて、卑屈なまでのヤコブの気持ちが出ています。

ところが使者が持ち帰った報告は、エサウが400人を引き連れて出向いてくる、というものだったのです。
祖父アブラハムの代には手勢300人余で、メソポタミアの王たちの連合軍を叩き潰し、父イサクの代で地元の王も神経を使うほどの豪族になっていた一族。その一族を掌握するエサウが、精鋭400人を引き連れて向かってくる!

ビビりまくったヤコブは、奴隷も家畜も二組にわけ、一方を先行させることにしました。エサウが攻め込んできたなら、先行組が襲われている間にもう一組と逃げようという算段です。

でもそれくらいでは安心できない。
自分の知恵で窮地を打開しようとあがきましたが、手に余る窮地でおのれの限界を知った時、彼の心はヤハウェに向けられました。
困難というものには、自分の知恵と力でなんとかなるものと、自分ではどうしようもないものがあるのです。力の限りがんばるのは大事ですが、それ以上の事態になったら、もう悪あがきでしかない。そんなときどうするか。
自力でダメ、あきらめるのもイヤ。なら、誰かの力を借りるしかないですよね。
以下は、ヤコブのヤハウェへのうったえです。(丸カッコは筆者が想像するヤコブの心情。)

主よ、あなたはわたしにこう言われました。『あなたは生まれ故郷に帰りなさい。わたしはあなたに幸いを与える』と。
(あなたが帰れというから、母が安全だと言って来ないのに出発してきたんだ)

かつてわたしは、一本の杖を頼りにこのヨルダン川を渡りましたが、今は二組の陣営を持つまでになりました。
(このままエサウに殺されるとしたら、これらのものは一体なんだったんですか)

どうか、兄エサウの手から救ってください。わたしは兄が恐ろしいのです。
(現に兄は手勢を率いて攻めてくるじゃないか)

あなたは、かつてこう言われました。『わたしは必ずあなたに幸いを与え、あなたの子孫を海辺の砂のように数えきれないほど多くする』と。
(約束してくれたよね。助けてよ。とにかく助けて!)

恥も外聞もなく、死に物狂いの命がけで、ヤハウェに助けを求めるヤコブ。
あるいは、この状況自体が、ヤコブに「創造者に信頼する」ということを教えるための、ヤハウェが与えた試練なのかもしれません。

ところがヤコブは、全能者にまかせることができずに、まだ悪あがきするのです。
家畜の中からエサウへの贈り物を大量に選んで隊にわけ、隊ごとに距離を取って進ませます。物量だのみの、みつぎもの多段攻勢です。

しかしその夜、川の渡し場を渡ったところで、奇妙なことがおきるのです。

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2版:2003年05月19日

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