創世記 第18回

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アブラムの旅立ち(12章1節~9節)

背景

11章の最後、セムの家系図にこうあります。
[テラが七十歳になったとき、アブラム、ナホル、ハランが生まれた。テラは、息子アブラムと、ハランの息子で自分の孫であるロト、アブラムの妻であるサライを連れて、カルデアのウルを出発し、カナン地方に向かった。彼らはハランまで来ると、そこにとどまった。](抜粋)

ウルはユーフラテス川下流にあって交易で栄え、メソポタミアでも有数の大都市でした。そこからなぜ、荒野を超えてカナンに向かったのかはわかりません。儲け話でもあったのか、それともウルから逃亡する必要があったのか。
結局テラはカナン地方には入らず、ハランで205年の生涯を終えます。そして12章から、アブラム(のちのアブラハム)の物語になるのです。というわけで今号からアブラハム編突入です。

神に召し出される

12章冒頭、唐突にヤハウェがアブラムに語りかけました。アブラムが75歳のときのことです。

あなたは生まれ故郷
父の家を離れて
わたしが示す地に行きなさい。
わたしはあなたを大いなる国民にし
あなたを祝福し、あなたの名を高める
祝福の源となるように。
あなたを祝福する人をわたしは祝福し
あなたを呪う者をわたしは呪う。
地上の氏族はすべて
あなたによって祝福に入る。

アブラムが、ノア以来の信仰を受け継いできていたか、聖書は記録していません。ウルもハランも月を神として礼拝する町でしたから、アブラムたちも同じ宗教だった可能性もあります。聖書はただ、この語り掛けの唐突さだけを感じさせています。

ヤハウェはアブラムに「私の示す地へ行け」とだけ言って、行き先がどこなのかは教えませんでした。
砂漠にも等しい荒野で、食料も水もどこで手に入るかわからないような旅に出る者はいません。そんなことをすれば、死が待っています。自殺行為というか、自殺そのものです。遊牧民でもオアシスを目指して移動しますし、逃亡者だって目的地を定めてから出て行くでしょう。

しかしアブラムは[行き先も知らずに出発したのです](*1)。
なぜ、突然の声に、命をかけるような危険をおかそうと思ったのか。ヘブライ人への手紙の著者は、それはヤハウェを信じる信仰による、と書いています。それまでの生き方がどうだったかはとにかく、今この時からはヤハウェに従って行こうという覚悟です。

11章の系図には、アブラムの妻サライは不妊の女だった、と記録されています。あるいは子供がいたら、出発をためらったかもしれませんが、ヤハウェの命令には「あなたが行った先で、あなたを一大民族の祖にする」という約束が入っていました。 すでに高齢のアブラムにとって、神が子を与えるというのが、声に従う理由になったのかもしれません。

しかも、子孫繁栄というだけでなく「国民にする」つまり独自の領土を持った民族になるというのです。
すでにこの時代、エジプトやアッカド王国など、ノアの子ハムの子孫たちが一大勢力となっていましたが、ヤハウェはアブラムに、あなたの子孫をそのようなものにするといわれたのです。

そして、アブラムがこのときに、あるいはその生涯のあいだに悟ったかどうかわかりませんが、最後の約束がすごく意味のあるものでした。
地上の氏族はあなたによって祝福に入る

新約聖書の時代になって、アブラハムの子孫からキリストであるイエスが生まれ、どの氏族も(もちろん日本人も)、イエスを自分の主として受け入れるるだけで、ヤハウェの約束する祝福を受けられるようになるのです。

この3つの約束、「子孫を多くする(海の砂のように、空の星のように→22:17)」「国土を持つ」「全人類に祝福をもたらす」が、ヤハウェと、アブラムの代々の子孫との契約になるのです。「契約の民」「神の民」のはじまりです。

出発

ところで、アブラムに何かえらいところがあって、ヤハウェはこんな大き約束をしたのかというと、まったくそんなことはありません。契約というにはあまりに一方的な、ヤハウェの宣言でした。

そのヤハウェの言葉にしたがって、アブラムは,妻サライ、甥ロトとともに、「ヤハウェが示す地」へと旅立ちました。
そうしてやってきたのが、カナン人が住むカナン地方。新共同訳で「シケムの聖所、モレの樫の木」とありますが、”モレ”とは占うものという意味で、ここはカナン人の宗教にとっての聖なる場所でした。荒れ野にあって、そこは日本で言う門前町のように人の集まる場であり、アブラムたちはそこに宿を求めたのです。

この異教的な土地で、再びヤハウェはアブラムに語りました。今現在カナン人の土地であるここを、アブラムの子孫に与えるという宣言です。
はたして、アブラムの子孫であるイスラエルは、エジプトからの大脱出ののち、偶像崇拝に堕したカナン人を掃討してこの地に住むようになるのですが、それは後の時代のおはなし。アブラムはヤハウェの言葉を受け入れ、カナン人が礼拝する聖所とは別に、創造者である神ヤハウェを礼拝する祭壇を築いたのでした。

年表

聖書の各記事の年代については,さまざまな説が提示されていて、しかし史料不足から決定力を欠いています。このため、ここにあげるのは必ずしも確定的なものではありませんが、参考として。

紀元前2154ニムロデが建てたアッカド(→創世記10:10)を首都とするアッカド王国が滅亡
2165アブラム(のちのアブラハム)誕生
2155アブラムの妻サライ(のちのサラ)誕生
2090ハラン出発(アブラム75歳,サライ65歳)
2030ハランに残ったテラが205歳で死去

エジプトでは第9,10王朝の時代(前2160~2040)です。


*1 ヘブライ人への手紙11:8

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2版:2003年03月11日

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